痛み膏肓に入る
そうざ
Unmanageable Pain
「どうされましたか?」
「はい、数日前からどうも胃が痛くて……」
「それはいけませんね。どのように痛むのですか?」
「そうですねぇ、シクシクと言うか、キリキリと言うか」
「シクシク、キリキリ……ですか。もうちょっと具体的にお願い出来ますか? 的確に表現して頂ければ病名を特定しやすいですし、治療も迅速且つ的確に行えますので」
「う~ん……胃袋をギュッと握られるような、とでも言いますか」
「男性の手ですか? 女性の手ですか?」
「え?」
「だって、男女によって握力が違うでしょう?」
「あぁ……結構キツイから、男かな」
「巨漢? 痩せぎす?」
「……そこそこ巨漢の感じかな」
「右手ですか? それとも左手? 利き手とそうじゃない手とでは微妙に違いますからね」
「利き手でお願いします」
「纏めますと、そこそこ巨漢の男に利き手で胃を握られたような痛みを感じている、という訳ですね?」
「そうです、そうです、先生、早く治療して下さい。こうしてる間も痛みが走るんです」
「痛みが走るという表現はどうなのでしょう。前々から気になっていたんですよ。痛みは厭くまで感じるものであって――」
「分かりました、分かりました、私はそこそこ巨漢の男に利き手で胃を握られたような痛みを感じていますっ」
「それから、これは念の為にお尋ねしますが、貴方はそこそこ巨漢の男に利き手で胃を握られた経験があるのですね?」
「はぁ? ないですよ、そんなの。ある訳ないじゃないですかっ、イテテテ」
「困りますねぇ、単なる想像で表現してたんですかぁ? そんな現実味のない例えじゃこっちもお手上げですよ」
「一体どうしろと仰るんですかっ?!」
「しっかり頭を整理して、ちゃんと表現の勉強をして、出直して下さい。そうだ、国語辞典を貸して差し上げましょう」
「あぁ、痛みが酷くなった気がする、ううっ……」
「どんな風にですか?」
「ううっ……例える、なら……」
「例えるならっ? ほら、頑張ってっ!」
痛み膏肓に入る そうざ @so-za
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