二十七日目 コロシアウ

 リュイ王国の城内にあるコロシアム、そこには剣や槍を持った傷だらけの少年達がいたが、その向かい側には同じように各々武器を持った無傷の少女達がいた。

一見すれば、男女対抗で特訓をしているようにも見えなくはなかったが、少女達の目は妖しい輝きを放っており、少女達の後ろでは目をハートにしている二人の少女に抱きつかれながらニヤニヤ笑ってコロシアム内の光景を見ている光真の姿があった事から、その光景が普通の物ではないのがハッキリとわかった。


「はあ、はあ……くそっ、このままだと俺達が全滅するぞ!」

「それはそうだけど、光真を狙おうとしたら女子達が盾になろうとするし、女子達を攻撃しようとしたら一瞬正気に戻されて攻撃を躊躇わされるからどうしようもないって!」

「女子達を殺したらそれはそれで俺達が辛くなる。けど、このままだと俺達がやられる……アイツ、なんて卑劣な手を……!」


 少年達が光真に対して怒りと憎しみがこもった視線を向けたが、光真はまったく怯む様子を見せなかった。


「おいおい、怖い顔するなよ。二人だって怖がるだろ。なあ?」

「うん、こわーい」

「光真さまぁ、私達を守ってぇー」

「ああ、俺のそばにいれば大丈夫だからな」

「「あー、光真さまぁ~」」


 少女達は光真に更に抱きつき、少年達はその光景を羨ましそうに見ると同時に悔しさを露にしていた。


「アイツ……!」

「あの無能、どこであんな羨まし──じゃない、最悪な力を手に入れやがったんだ!?」

「知らん! けど、女子達を正気に戻せないと俺達が死ぬ事になるんだ! 早く女子達を正気に方法を見つけ──」


 その時、少女の内の一人が杖を構えながら呪文を唱えた。その瞬間、少年の内の二人の地面が赤く変化し、そこから吹き上がってきた炎に包まれた。


「あっ、ああぁーっ!!」

「た、助け──ぎゃあぁーっ!!」

「おい! 今助け──」

「もうアイツらは無理だ! ほっとけ!」

「お前……何を言ってんだよ! そんな残酷な事を言える奴だと思わなかったぞ! この冷酷野郎!」

「なんだと!?」

「おい、止めろって!」


 少年達の中で言い争いが始まる中、光真はそれを見ながらニタリと笑った。


「仲間割れしてる場合か? そのままだとどんどん同じ目に遭うだけだぞ?」

「うるさい! 自分から戦わない腰抜けは黙ってろ!」

「そうだそうだ! 女に守れられるだけで何もしないや──」


 光真に対して怒りを露にしていた少年の頭は突如上下で二つに分かれ、鼻から上が宙を舞う中、口だけになった頭が付いた胴体はドクドクと血を流しながらその場に倒れた。

そしてその凄惨な光景に少年達は吐き気を催していたが、少女達は愉快そうに笑い始めた。


「あははっ! 見てよ、光真様に逆らったからああなったのよ!」

「ほんとにバカよね。光真様を怒らせるなんて頭悪いんじゃないの?」

「そんな男共よりも光真様の方が何倍も素晴らしいわ」

「ああ……早く光真様に愛してもらいたい……」


 クラスメートの変わり果てた姿に対して悲しむ姿を見せない少女達の姿に少年達の表情は絶望に満ちた物に変わった。


「あい……つら……」

「操られてるとはいえ、クラスメートの死すら届かないのか……」

「……いや、前々からそう思ってたんじゃないか? 表向きは仲良くしてるようでも実は裏ではあんな風に嘲笑っていたんじゃ……」

「そんな事……あるわけ、ない……」

「……ダメだ。もうおしまいなんだ……」


 少年達はすっかり戦意を喪失しており、その姿に光真はつまらなそうな表情を浮かべた。


「……なんだもう終わりか。それじゃあそろそろ女神支配ゴッデスキャプチャーを解いてやるかな。でも、その前に……お前達、ちょっと離れてくれ」

「はい、光真様」

「光真様のお望みとあれば」

「ああ、ありがとうな。よっと……それじゃあ、そろそろ終わりにするかな」


 少女達が離れ、光真がニヤリと笑う中、少年の一人は光を失った目で光真に視線を向けた。


「お、おい……何をするつもりだ?」

「何って……決まってるだろ? お前達が望んでいた事をするんだよ」

「望んでいた事って……まさか、この状態で女子達を!?」

「や、止めろ! そんな事をしたら女子達の精神が……!」

「……それじゃあ解除、っと」


 少女達から程よく距離を離した光真は女神支配を解除した。その瞬間、光真の虜になっていた少女達は揃ってハッとしたが、炎魔法によって燃え尽きていた少年二人の屍と血の海の中に沈む顔の半分を失った少年の屍を視認し、少女達の表情は恐怖に染まった。


「いっ、いやあぁー!?」

「な、なにこ……うっ、うえぇ……!」

「そんなどうして……」


 少女は悲鳴を上げたり嘔吐したり、と恐怖が急激に限界値に達した事でそれぞれ反応を示していたが、その内の一人が信じられない物を見るような目で少年達を見始めた。


「まさか……アンタ達がやったの!?」

「なっ……!」

「ち、違う! お前達がいなくなったから、探しに来たらここにいて、それで!」

「嘘よ! どうせいなくなったっていうのも誰かが正気を失わせて何かしようとしただけでしょ! それで、言い争いになって邪魔になったから殺したのよ!」

「違うって言ってるだろ! この……バカ女共!」

「バカ……ですって!? 簡単に女子にそんな事を言えるなんて最低よ!」

「最低はどっちだよ!」


 少年達と少女達の関係にはハッキリとした亀裂が走っており、ヒートアップした言い争いは両者の間に憎しみと殺意を生み、やがて両者はお互いの主張のために殺し合いを始めた。


「おー、やってるやってる。それにしても、ほんとに滑稽だよなぁ……女共は普段から男側を下に見てたのかまったく話を聞こうとしなくて男共も女側の言葉に煽られてキレ始めたし、本当に見世物としては面白いもんだな」


 目の前で行われている本当の殺し合いを光真が面白そうに見ていると、その後ろにある出入口から真言が姿を現した。


「光真君、お疲れ様です」

「おっ、真言か。お疲れ」

「首尾は……見たところ、大丈夫そうですね。けれど、こんなに騒いでいて大丈夫でしょうか?」

「このコロシアムには防音の魔法をかけているし、俺達以外を寄せ付けない人払い用の魔法も使ってるからアイツら全員が死ぬまでは大丈夫だよ。そっちは大丈夫か?」

「はい。私の役目だった兵士達の一部の拉致は終わったので」

「そっか。ありがとうな、真言」

「いえいえ。光真君もお疲れでしょうし、一度帰りませんか?」

「ん、そうだな。このままアイツらの殺戮ショーを観ても良いけど、流石に飽きてきたしな。それじゃあ帰ろうぜ、真言」

「はい」


 真言が返事をした後、光真達は出入口を通ってコロシアムを出ていった。その後も少年達と少女達による自分達の怒りと憎しみを主張する殺し合いは続き、最後の一人同士になった後、残った少年と少女は相手への暴言を口にしながら同時に相手の命を奪った。

そして二人の命の灯が消えた後、魔法が解けたコロシアムには兵士の一人が入ってきたが、見るも無惨なその光景と血肉と嘔吐物が入り交じった悪臭に兵士は悲鳴を上げた。

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