十二日目 欲望の夜

 夜のクスザ王国の城下町。その城下町の外れにある古ぼけた廃屋の一室、松明のみしか明かりのないその一室には数人の人物の姿があった。

そこは少々広い客間であり、壁際に置かれたベッドの上には衣服を何もまとわずにうっとりとした表情で座る褐色の肌の少女がおり、少女の小柄だが豊満な肉体には汗や白濁とした物がつき、その少女の周囲には同じく何も身に付けていない数名の男性達が興奮した様子で息を荒くしていた。


「うふふ……皆さん、もっと私に色々な事を教えてください」

「は、はい……姫様……」

「はあ、はあ……姫様の体、本当にすごいな……」

「ああ、まだ男をあまり知らないのにこんなに俺達を興奮させて気持ちよくしてくれるんだもんな……」

「本当に夢みたいだ……」


 恍惚とした様子の男性達の声には少し疲れが見えていたが、それでも肉体は目の前の裸体の少女を求めており、姫が三人の男性の劣情を受け止め始める中、反対側の壁際に敦史と共にもたれていた強佳はその光景を冷ややかな目で見ていた。


「ほんと、男って単純よね。自分達であのお姫様を好きに出来るかもって思ったら、簡単に自分のとこの王様すら裏切るんだもの」

「それくらい我慢の限界が来ていたんだろうな。しかし、光真から一時的に“受け取った”赤雀姫スウの力はすごいな」

「ああ、心操幻惑ハートチャームね。相手の五感や欲求に働きかけて現実と錯覚する程の幻を見せ、それに囚われた相手の心を意のままに操る奴。たしかにこの力を使ってあのお姫様を城から連れ出せたのはだいぶ助かったわ。まあ、それをやった張本人は散々あのお姫様を味わった後に向こうでまだ色々やってるようだけど」


 強佳は呆れた様子で壁の向こうに視線を向けながらため息をついた後、ゆっくりと姫や男性達へと近づいた。


「さて、アンタ達。だいぶ良い思いをさせてあげたし、私達に色々協力してもらうわよ」

「……あ、はい。でも、その後はえっと……」

「……わかった、光真に会わせたげるわ。アンタ、そいつらと楽しんでる時もだいぶ笑顔だったけど、光真と一緒の時の方が嬉しそうだものね。それで、まずは質問なんだけど、転移してきたあいつらの能力と今のそれぞれの関係値、全部教えてもらえるかしら?」


 その質問に姫達は素直に答えると、強佳は顎に手を当てた。


「なるほど……何となく察してたけど、上位の能力を持ってる奴程、あいつらの中や城内での地位は高くされていて、中くらいからだいぶ人権はない感じになってるのね」

「日中に軽く調べた感じでは地位の低い女は兵長や騎士達の慰み物にされ、男もキツい環境で力仕事をやらされたり時には王の暇潰しで殺し合いをさせられたりしている上に更に低い地位になると男娼として薬漬けにされた状態で閉じ込められているようだ。その薬はこの国では合法らしいが、俺達からすれば明らかに違法だな」

「そうね。というか、この国ってやっぱり分かりやすく力主義よね。上位の奴らも単純に強そうな能力の奴しかいなくて、地位の低い奴らのは一見すると使えなそうだけどもしかしたら悪用出来るかもって物ばかりだし」

「娘の私が言うのもあれですが、お父様は結構単純なお方ですし、大臣や騎士団長達も分かりやすい力にしか興味はありません。わかりづらい物よりも分かりやすい物で固めたり作戦を考えるよりもまずは動いたりする方が好きですし」

「……わかりやすい脳筋ね。でもその分、純粋に戦力は高いわけだし、ただ真っ正面から挑んでもそのまま押しきられる可能性は高い。それなら、少しずつ崩したり仲間割れをさせたりする方が現実的かしら。敦史、真言と一緒に色々頑張ってもらう事になりそうだけど問題ない?」

「ああ。俺の時も復讐を手伝ってもらうわけだからな。それくらいは任せてくれ」

「ええ、頼んだわ。それにしても、話で聞いてた限りだと、穏やかな南国で食べ物も美味しくてバカンスには最適そうだと思ってたけどそれはあくまでも上澄みで、底の方はだいぶ濁っていたようね。これはちょっと一般の奴らにも話を聞いたら更に面白い事がわかるんじゃないかしら……」


 強佳が腕を組みながら独り言ちていたその時、部屋のドアが開き、何も身に付けずに体液やキスマークを身体中につけた光真が現れると、姫は心から嬉しそうな顔をした。


「コウマ様……! また私を愛してくださいますか?」

「ああ、もちろんだ。あっちでも色々な奴を相手して、そろそろ限界になるかなと思ってたんだけど、まだまだ大丈夫そうだしな」

「アンタの体、色々な奴の能力を取り入れたせいで人間を超え始めたんじゃない?」

「あはは、それはあるかもな。それで、何かわかったか?」

「表面上は綺麗でも中身がかなり汚い事や真っ正面から攻めるのは難しそうな事はわかったわ。でも、アンタと真言が色々な奴を篭絡して、良さそうな能力は色々利用させてもらえば良いし、捨てる神あれば拾う神ありってところを見せてやりなさい」

「ああ、わかった。さてと……それじゃあそろそろまたこのお姫様を味あわせてもらうか。なあ、お前達」

「はい、コウマ殿」

「姫様はまだまだ物足りないようですので」

「そっか……へへ、楽しみだな」


 コウマがニヤつきながらベッドへと近づく中、強佳と敦史は静かに部屋を出ると、ドアが閉められた部屋から姫の嬌声が聞こえ始める中で廊下を歩き始めた。


「あの性欲魔神、本当に人間辞め始めたんじゃない? 流石に思春期ゆえの回復力とか性欲の高さとかを超えてるでしょ」

「だが、それに助けられているのもまた事実だ。それに、もしかしたらそれは真言の接触隷属ドールマスターの影響かもしれないな」

「アンタの拒絶創造アンチメイカーや光真の完全複製コピーライターが強化されたみたいに?」

「ああ。俺の拒絶創造は対象に対して殺意や憎しみを抱かせるだけではなく能力にかかった奴の行動まで操作出来るようになり、完全複製は相手の能力をコピーする以外にも時間制限付きで他の奴にその能力を付与出来るようになった。それなら、接触隷属も使い続けた事で強化されていてもおかしくはない」

「正確なところはわからないけど、自分や対象になった奴の体力の増強や回復速度の上昇、後は性欲の増強と行為に及ぶ際の突然死の無効とかそんなとこかしらね」

「そうかもな。さて、明日はどうする? 今のところ、地位が中くらいまでの女達は集めて光真の支配下に置いたが、そろそろ男共も真言の支配下に置くか?」

「そうしときましょうか。それで能力や力はしっかりと奪ってその後は特攻でもさせれば良いわ。あんな奴ら、能力や力さえ奪えばそれくらいしかやれる事もないでしょうしね」

「そうだな」


 強佳の言葉に敦史が静かに答えた後、二人は廊下を歩いていったが、強佳の目には復讐に燃える暗い炎が宿っていた。

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