十一日目 籠絡

 シュオンの南方に位置する大国、クスザ王国。青く澄んだ海や白い砂浜が広がり、眩しい程の太陽の日差しが降り注ぐ王国であり、新鮮な海産物が名産品として有名だ。

そんな見事な浜辺では数人の水着姿の少年少女が楽しそうに海水浴を楽しんでおり、その誰もが均整の取れた体つきの美形だった。そして、その中にいた背丈が少々小柄でありながらも豊満な体つきをしている褐色の少女も少年少女達と共にキラキラと光る水しぶきの中で楽しそうな顔をしており、そんな光景を見ていた軽装の兵士達の表情はそれとは逆に不服そうだった。


「はあ……仕方ないとはいえ、なんで姫様だけじゃなくあのわがままばかりな奴らの事まで見てなきゃないんだろうな」

「それが王様からのご命令だからな。今のところ、来た内の誰が勇者かわからない以上、とりあえず力の強い奴らには優遇して機嫌を取り、いざとなったらその力を利用して使い潰してやれとの事だ」

「まあ、ここまで色々やってるわけだし、それくらいの働きはしてもらわないとな。もっとも、アイツら以外は他の仕事を今もこなしてるわけだが……」


 兵士の一人は浜辺の近くに建てられた小屋に目をやって小さく溜め息をつく。


「はあ……あの中ではそこそこ顔が良い女達を兵長や騎士達が楽しんでるんだろ? ほんと下っぱの俺達からすれば羨ましいもんだぜ」

「まあそう言うな。他の男共は今も城で召し使いしてたり城下町で男娼をしたりしていて、顔も体つきもそそられない女達は奴隷として国のあちこちに送られては好き放題されてるんだ。こうして羨ましがりながらのんびりと出来るだけ俺達は良い方だろ」

「それはな。それにしても……姫様、良い体してるよな」


 褐色の肌に水滴を付けながら楽しそうにはしゃぐ姫の姿を見た兵士の一人がゴクリと喉を鳴らす。


「顔つきや背丈はちょっと子供っぽいけど、出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでるあの体は女としてすごく良いよな」

「おいおい、そんな事言ってるのを王様に知られたら間違いなく殺されるぞ? 王様は姫様を溺愛しているんだからな。勇者か自分が認めた力の持ち主以外には一切渡さないって言ってたし、アイツらの内の一人が肩に触れただけで剣を持ち出して殺してやると息巻いていたくらいだぞ」

「そういやそうだったな。王様はまだ王子だった頃から一方的に戦うのが好きで、昨日も二人くらいアイツらの仲間を動けないようにしてから痛め付けて半殺しにしてたわけだし、姫様に手を出したら本当に殺されちまう」

「ああ。だから、姫様は今でも経験がないどころかそういった事についての知識すらまったくないし、前は薄着のままで騎士達の詰め所に行ったみたいだ。それで騎士達もその場はすぐに離れさせたけど、それでたまらなくなった奴らは町に繰り出して娼館で夜を明かしたっていう噂だ」

「そりゃ仕方ねぇよ。あんなに男が好きそうな体してる上にまったく警戒しないばかりか薄着のままで近寄ってこられたのにおあずけくらったらたまったもんじゃねぇ」

「まあ、それで貯まったもんはすぐに吐き出すんだけどな」

「はっはっは、たしかにな」


 兵士達は声を上げて笑っていたが、その視線は海水浴を楽しむ姫に向けられており、照りつける日差しの中で姫が体を動かすその度に兵士達は喉を鳴らし、奥底から沸き上がってくる劣情に身を委ねそうになっていた。


「……なあ、あり得ないのはわかってるけど、何も知らない姫様に……」

「……それ以上は言わない方がいい。兵士の中には同じように考えてる奴は結構いるからな」

「……だよな。自分達の疲れを労うためとか更に綺麗になるためとか言って、何も知らない姫様に色々してもらおうってのはやっぱり考える事だよな……」

「あの無垢で純粋な姫様が一度汚れて、そのままその闇に染まっていく様はやっぱり見たいって。あの体を好き放題出来たらそれだけでも天に昇る程の喜びを感じるだろうしな」

「そうだよな……色々柔らかそうだし、あの顔で下から上目遣いされながら刺激された日にはもう姫様を汚す事しか頭に無くなるぞ」

「まったくだな。一緒に遊んでる女達もあの男達がいつも自分達だけで楽しんで、他の女は兵長や騎士達にしかあてがわれず、俺達はこの光景をただ見てるだけ。いっそ死ぬ前に今から姫様をこの空の下で襲って、最期に良い思いだけしてしまおうか……」

「気持ちはわかるけど止めとけって。帰りに娼館で適当な女を金出しあって買えば良いんだよ。あの女達や姫様よりは具合はそんなに良くないだろうけど、とりあえず女抱けたらそれで良いしな」

「そうだな」


 兵士達が憂鬱そうな顔で話していたその時だった。


「へえ、面白い事聞いちゃった」

「え……な、お前は……!」


 兵士の目の前には妖しい笑みを浮かべる強佳の姿があり、その後ろには光真達が静かに立っていた。


「数日ぶりね、お馬鹿な兵士達。だいぶアイツらのせいでストレス溜めてるみたいじゃない」

「お前……何をしに戻ってきた……!」

「何ってそんなの決まってるじゃない。アンタ達に復讐をして、この国をぶっ壊す。そのために仲間達と帰ってきてやったのよ。少しは喜びなさい?」

「復讐だと?」

「力の無いお前に何が──」

「じゃあ、見せてあげましょうか。私が得た力を」


 その瞬間、強佳からは強大な力の波動が一瞬だけ感じられ、兵士達は無力だと感じていた強佳の様子の変化に顔を青くすると、ガタガタと体を震わせ始めた。


「ど、どういう事だ……」

「お前、能力も力もないんじゃ……!」

「手に入れたのよ、アンタ達ごときじゃ到底及ばない力を。それに、今の私は魔王の四天王や魔王の力すらも手に入れてる。アンタ達なんて指一本で簡単に殺せるのよ」

「ま、魔王……!?」

「それじゃあ魔物達の姿が見えなくなったのも……!」

「そう、魔王が死んだから。結果として自害で勝ち逃げされたけど、その後に私達はその力すらも手に入れた。その意味、わかるわよね?」


 淡々とした様子で言う強佳の言葉に兵士達が震え上がっていると、光真は浜辺へと視線を向け、そこにいた姫の姿を見て下卑た笑みを浮かべた。


「……あそこにいるのがこの国の姫か。結構楽しめそうだな」

「光真君、他の女の子で遊ぶのも良いですけど、その後はわかってますよね?」

「ああ、その倍以上真言を愛するって。それでお前達、お前達も正直な事を言えばあのお姫様を自分達の物にしたいんじゃないのか? こんなところで水着姿の女を見せられるだけだと色々我慢の限界だろうしな」

「さっきも死ぬ前に一度汚したいなんて言ってたしね。でも、アンタ達は運が良いわ」

「う、運……?」

「そう。最終的にはアンタ達を抹殺するし、この国は滅ぼす。だけど、その前にあのお姫様を他の兵士達と一緒に好き勝手出来るとしたら……どうかしら?」

「ひ、姫様を……」

「好き勝手に……」


 兵士達は信じられないといった様子だったが、その様を想像したのか吐く息は荒く、光真は兵士達の姿を上から下まで眺めた後にニヤリと笑った。


「どうやら答えは聞くまでもないみたいだな」

「そうみたいね。さて……それじゃあ早速始めていきましょうか。私達の復讐を」


 眩しい日差しの中、楽しそうに呟く強佳の目は底知れない闇を宿していた。

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