本音をさらけ出せ

「勝負?」

「何をするつもりじゃ、アレン?」

「安心しろ。悪いことにはならないから」


 少々強引なやり方だが、このままじゃ平行線だ。


「俺が勝ったら本心を聞かせてもらうぞ」

「その勝負を受ける理由があるのかしら?」

「俺が負けたら、俺がお前たちの配下になると言ってもか?」

「「「――!!」」」


 さすがに、この発言は予想外だったか。

 サラは予想していたのかもしれない。

 彼女以外の全員が、目を大きく見開いて驚いた。


「あ、アレン……」

「本気ですか? 私たちの下につくと?」

「ああ、本気だよ。これなら、受ける価値があるだろ?」

「……」


 キスキルが言葉を探している。

 反論の言葉か、それとも肯定か。

 それを吹き飛ばすように、ルシファーが命令する。


「受けろ、キスキル」

「ルシファー様」

「魔王からの命令だ。従え」

「……はぁ」


 キスキルは大きくため息をこぼした。

 過去の関係性はあっても、現在の力関係は魔王と部下だ。

 彼女も、ルシファーの命令には従うらしい。

 俺はルシファーと視線を合わせる。

 

 礼は言わないぞ。


「ルールは?」


 キスキルが尋ねてくる。


「ただ戦うわけではないでしょう?」

「もちろん、勝負というよりゲームだ。ルールは単純、五分間でリリスに攻撃を一発でも当てたらそっちの勝ちだ。俺はリリスを守る。ハンデとして、俺は聖剣を使わない」

「なんですか、そのルールは? なぜリリスを」

「それでいい、やれ」


 ルシファーが有無を言わさない。

 俺の意図をくんでくれている感じが少々癪だが、今はこれでいい。

 ルシファーが認めたんだ。

 これで逃げ場はないぞ。


「わかりました。私は何を使ってもいいのですね?」

「ああ」


 キスキルはリリスに視線を一瞬向け、逸らした。

 

「お母様……」

「大丈夫だ、リリス」


 不安げな彼女の耳元で、俺は呟く。


「お前はじっとしていればいい。信じろ……俺を、それから……母親を」

「アレン……?」

「見てればわかる。この勝負……始まる前から結果は出てる」


 キスキルが俺たちの前まで歩み寄る。

 距離を保ち、俺の背後にはリリスがいる。

 巻き込まれないように、サラが部屋の端まで下がった。

 

「始めましょうか」

「ああ」


 俺は拳を構え、キスキルは右手を前にかざす。

 彼女の背後には巨大な黒い穴が開き、そこから複数の魔物が姿を見せる。


「空間魔法で魔物を」

「キスキルには魔物の管理も任せているんだ」


 と、ルシファーが解説してくれた。

 魔物をどう使うかも、キスキルが権利を握っている。

 現れた魔物はまっすぐに、俺たちのほうへ向かう。


「魔物じゃ足りないな」


 俺は駆け出し、魔物の顔面を殴り飛ばす。

 吹き飛ばされて重なったところへ、追い打ちをかける様にけりを入れる。

 

「それじゃ俺には届かないぞ」

「なら、数を増やしましょう」


 巨大な黒い穴が複数開く。

 四方を囲むように魔物が出現し、一斉に襲い掛かる。

 俺はすかさず順番に、一匹ずつ魔物を倒していく。

 一体一体は余裕だが、一人で複数体を相手にするのは時間がかかる。

 今はリリスという護衛対象がある状況。

 数で押されれば不利だ。

 が、俺はわかった上で前に出る。

 あえて隙を作り、リリスのもとへたどり着けるように。


「抜けるぞ、キスキル」

「……」


 ルシファーの声を聞き、キスキルが前に出る。

 定まった道を進み、リリスの元へ。

 

「お母様」

「リリス」


 俺は魔物の相手をしている。

 もはや阻む者はない。

 一発……当てれば決着はつく。


 当てられたら……。

 

「どうした? もう間合いだぞ、キスキル」

「……」

「お母様……?」

「……はぁ、私の負けです」


 彼女は敗北を宣言し、召喚していた魔物たちを黒い穴に押し込める。

 戦いは終わった。

 俺はパンパンと手を払い、キスキルに言う。


「本音は、聞くまでもないな。あんたはリリスを攻撃できなかった。それが何よりの答えだ」

「……あなた、本当に勇者なのかしら? やり方が卑怯よ」

「生憎、こんな俺を勇者と呼ぶ奴がいるんだよ」

「……確かにそうね。勇者らしく……おせっかいだわ」


 彼女は呆れたようにため息をこぼした。

 もう、俺の言葉はいらないな。

 あとは二人で話せばいい。

 今度こそちゃんと、親子らしい会話を。


「お母様……」

「リリス……大きくなったわね」


 キスキルがリリスを抱きしめる。

 優しく、暖かな抱擁を見せる。


「一人にしてごめんなさい。でも、これが約束だったのよ。彼との……」

「お父様?」

「そうよ。彼は自分が死んだら、私に新しい大魔王を支えてほしいってお願いしてきたの。そうなれる存在を見定めて、導いてほしいってね」

「だから……ルシファーと?」


 抱き寄せていた身体を離し、キスキルは頷く。


「現時点でも、ルシファーが大魔王に近い。だから私は、彼との約束を守るためにルシファーを支えているのよ」


 俺は二人を見守る。

 そこへルシファーが歩み寄り、俺の隣に立つ。


「大魔王様も大魔王様だが、彼女は真面目過ぎる。まぁ、俺は楽ができているから構わないがな」

「お前、知ってたんだな」


 ルシファーは小さく笑みを浮かべる。

 俺たちは再び、二人を見る。


「リリス、私も本音を言えばね? あなたに大魔王になってほしいのよ」

「お母様……」

「だってそうすれば、約束を守ってリリスと一緒にいられるでしょ?」

「……ぅ、お母様……ワシは……ワタシ……」

「そのしゃべり方、彼にそっくりね」


 ようやく見せた優しい笑顔に、リリスの心が解かされる。

 初めてリリスから抱き着く。

 瞳からいっぱいの涙を流して。


「お母様! 頑張る……絶対、大魔王になるんじゃ」

「ええ……期待しているわ。私と彼の娘だもの」


 二人は抱き合う。

 お互いの存在を確かめる様に。

 親子の絆を、確かめるように。


「これにて一件落着……か」

「なんで協力してくれたんだ?」

「別に協力したつもりはない。憂いが残っていては、全力で戦えないだろう?」

「そういうことか」


 魔王らしい考え方だな。

 だったらお礼なんて言う必要もないだろう。


「俺はここで戦っても構わないぞ」

「……辞めておこう。今は……この光景を邪魔したくない」

「……ふっ、勇者らしいことだ」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

これにて『大魔王の妻』編は完結です!


速く読みたいと言う方は、ぜひ『小説家になろう』版をご利用ください。

URLは以下になります。


https://ncode.syosetu.com/n2294hx/


よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る