サプライズゲストの登場!

 大罪会議。

 魔王の中でも大罪の名を関する悪魔が集う場。

 事実上、現在の魔界を支配しているのは彼らだという。

 つまりは魔界の最高戦力が一か所に集まる。


「そんな会議があったなんて知らなかったな」

「始まったのは最近じゃよ。五十年ほど前からじゃ」

「人間に五十年は長いんだよ」


 俺たちは会議が行われる場所に向かっていた。

 魔界の最北端にあるリリスの魔王城から、歩いたり飛んだりして五日間。

 西の果てにあるルシファーの領地へ入る。

 大罪の魔王たちの中でも、ルシファーを含む数名はそれぞれに領地、国を築いていた。

 俺たちは歩を進め、ルシファーが治める街へと入る。


「……悪魔の街か」

「なんじゃ? 初めてじゃったか?」

「そんなわけないだろ? 今まで何度も見てる。その度に思うんだよ」


 街の景色を見渡す。

 歩いているのは人間ではない。

 この街にいる人間はおそらく、俺とサラだけだ。

 今はフードとローブで全身を隠しているが、これを取ればさぞ目立つだろう。

 その違いさえ除けば、ここは普通の街だ。

 家があって、住んでいる者がいて、商店街に遊び場……。

 規模も王都と変わらない。


「悪魔と人間の違いって、結局は見た目だけなんじゃないかな」

「そんなわけないじゃろ。生きる時間も身体の作りも違うんじゃぞ。亜人なんてもっと違う」

「……確かにそうなんだけどさ。こうして普通に生活してる。この景色は、人の景色と変わらないんだよ」


 つくづく思う。

 人間が生きている時間を、悪魔たちも同じように生きている。

 この国に、王であるルシファーに守られて。

 仮にここで、俺がルシファーを倒してしまったら、彼らの生活はどうなるのだろう。

 きっと見るに堪えない結果になる。

 他の魔王に蹂躙され、支配され、平穏は破られる。

 俺たち勇者の行いがそういう結果を生む。

 果たして、勇者と魔王に違いなんてあるのだろうか。


「アレン様、そろそろ到着します」

「――ああ」


 サラが諭すように俺を見つめる。

 そうだな。

 悩むのは後からでいい。

 今はこの場を、どう乗り切るか考えるべきだ。


  ◇◇◇


 アレンたちが魔王城付近に到着した頃。

 すでに場内では大罪の魔王たちが集まり、会議を始めていた。


「なぁおい、この会議毎回やってるが意味あんのか?」


 そう文句を口にした巨漢。

 腕が六本ある阿修羅の化身、【暴食】の魔王ベルゼビュート。

 かつて大魔王サタンに仕えた幹部の一人である。


「まったくですよ~ ボクだって忙しいんですからね~」


 彼に賛同しながら欠伸をする小柄な悪魔がいる。

 一見子供に見えるが、生きた年数はこの場で最も長い。

 【怠惰】の魔王ベルフェゴール。

 ベルゼビュートと同じく、かつてサタンに仕えた幹部の一人。


 円卓に座る他の魔王たち。

 【嫉妬】の魔王レヴィアタン。

 【憤怒】の魔王アンドラス。

 【強欲】の魔王マモン。

 【色欲】の魔王アスモデウス。


 そして最後の――


「まぁそういうな。こうして俺たちが集まることには意味がある。ここは俺たちの魔界だと、世界に示す意味がね」


 【傲慢】の魔王ルシファー。

 ベルゼビュート、ベルフェゴールと共にサタンに仕えた悪魔の一柱。

 大罪会議の主催であり、彼が始めたことでもあった。

 故に会議の場を提供している。

 魔王たちは自己中心的で、誰かに従うことを好まない。

 自らが王を名乗り、他を支配することを望むが故に。

 だからこそ、気に入らなければ壊す、殺す。

 

「忙しいのに集まってくれて感謝するよ。いつもありがとう」


 そう、そんな彼らがルシファーの意志で集まっている。

 一癖も二癖もある魔王が、一度も欠かすことなく会議に出席している。

 人類は未だ知らない。

 大罪の魔王たちが仲間でこそないが、いつでも結託できる距離にいることを。

 もし知れば、絶望するだろうか?

 否、彼らには希望がある。

 もっともすでに失われてしまった希望だが……。


「まぁ、退屈な想いをさせていることは心苦しいと思っている。だから、今日は特別なゲストを招待しておいたよ」

「ゲスト?」

「えぇ、誰か来るんですかぁ?」


 ルシファーはニヤリと笑みを浮かべる。


「ああ、とっておきのゲストだ。お前たちも……覚悟するといいよ」


 期待、ではなく覚悟と言った。

 その意味を瞬時に理解する。

 すでにゲストは会議室の前まで来ていた。

 扉の前に立っている。

 気配は三つ。

 注目すべきはそのうちの一つ。

 大罪の魔王たちは、誰もが知っている気配を感じ、警戒した。


 扉が開く。


 現れた者たちに、大罪の魔王は驚愕する。


「ようこそ――我が城へ」

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