第二九話「いじめなんて、なくそうと思ってなくせるものでもないし、止めようと思って止められるものでもない」

 一七九日目。

 嫌な場面に遭遇してしまった。いじめである。

 トイレから泣きながら出てきたずぶ濡れの獣人の少女と、それをみてくすくす笑う少女たち。しかも最悪なことに、その獣人の少女が逃げようとしているのを通せんぼしている。

 あまり気持ちのいい光景じゃなかったので「通してやりなよ」と横から声をかける。


 首を突っ込むべきじゃない? もし相手が貴族だったらどうする? まあ、その時はその時だ。

 幸い、向こうも注意されたら分かってくれたみたいで、ちょっとびっくりしていたが少女の通せんぼをやめてくれた。そりゃまあ、よそ者に注意されるなんて驚くよな。

 もう一つついでに口をはさむ。


「あいつずぶ濡れだったけど、何かやらかしたのか?」


「……別に、どうでもいいでしょ」


「あ、そう」


 とがった口調の返事。確かにどうでもいいと言われたらそれまでだが。

 いじめなんて、なくそうと思ってなくせるものでもないし、止めようと思って止められるものでもない。いじめるやつの家庭的なストレスの問題もあれば、いじめられる側にも問題があるケースもあるし、一概によそ者が口を出せる話ではない。

 せいぜい、俺の目についたいじめ行為をたしなめることぐらいが関の山であろう。


(……まあ、俺とかクロエに波及しなきゃ、正直関係ないんだけどね)


 ほら行こ、と少女たちがその場をそそくさと離れていく。興が冷めたのだろう。

 彼女らの背中を見送りながら、俺はなぜか、昔いじめられっ子だったアズとのことを思い出していた。






 一八〇日目~一九六日目。

 手芸部と天体観測部に入部した。どちらもクロエの希望に合わせて、そこまで忙しくなく、ゆっくりできる部活動を選んだつもりだ。

 そもそも、迷宮探索にもっぱら時間を割かれている俺とクロエは、合間に気晴らしできる程度の作業がちょうど心地よい。

 単純に部室でだらだら過ごしたい、という思いもあった。


(クロエも友達ができたみたいだし、よかったよかった)


 最初、部員に挨拶をしたときはなんとなく距離を感じたものだが、ちょくちょくお料理ブラウニーたちが作ってくれる焼き菓子(ミカンやイチジクのジャムを載せて焼いたクッキーなど)を差し入れとして皆にふるまっていたら、いつの間にかそんな気まずさはどこかに消え去っていた。

 二週間ほど経った今となっては、部室のソファで友達と談笑してのんびりだらけているクロエを見るのも珍しい光景ではない。

 やはり同性で年齢の近い人間がそばにいると、クロエも話し相手ができて嬉しいのだろう。


 俺? 年齢もそんなに離れてないし、クロエともよく話す間柄だが、それでも異性同士だ。

 かたやどぎついジョークも飛ばす冒険者、かたやオペラも嗜む貴族令嬢、どうしても価値観にずれはある。たとえば、たまに二人で休日にオペラを見たりすることもあるのだが、あまり辛気臭い題材のオペラだと俺は苦手なのでパスしたり、こっそり横で寝たりしてる。

 半年近く一緒に過ごしてもこういうものなので、同性の気の合う友達がいるというのはきっとクロエにとってもいい刺激になっているはずだ。




 ミロク

 Lv:5.91→19.21→4.21

 Sp:0.15→26.88→1.88

≪-≫称号

 ├×(藍色の英雄)

 ├森の王の狩人

 └大罪の討伐者【嫉妬】

≪-≫肉体

 ├免疫力+++

 ├治癒力++++

 ├筋力_max

 ├感覚強化(視力++++ / 聴力++++ / 嗅覚++ / 味覚+ / 触覚+)

 ├熱源感知++

 ├造血++ 

 ├骨強度++++++ 

 ├×(肺活量)

 ├皮膚強化++++++ 

 └精力増強

≪-≫武術

 ├短剣術++

 ├棍棒術++++++

 ├盾術++

 ├格闘術+++++ 

 ├投擲++++++ 

 ├威圧+++ 

 ├隠密+++++

 └×(呼吸法)

≪-≫生産

 ├道具作成++ new

 ├罠作成++

 ├鑑定+++ 

 ├演奏 

 ├清掃 

 ├裁縫+++++ new

 ├測量++ 

 ├料理 

 ├研磨 

 ├冶金 

 └運搬 

≪-≫特殊

 ├暗記++ new

 ├暗算++ new

 ├直感 new

 ├並列思考+++++++ 

 ├魔術言語+++++ 

 ├詠唱+++++ 

 ├治癒魔術++++++++ 

 ├付与魔術_max 

 └血液魔術 new


 クロエ

 Lv:75.26(562)→75.36(522)

 Sp:7.21→8.61→1.61

 状態変化:腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×

≪-≫称号

 └大罪の討伐者【嫉妬】

≪-≫肉体

 ├免疫力+++

 ├治癒力+++ 

 ├筋力+++++++ 

 ├感覚強化(視力+++++ / 嗅覚+++ / 味覚+++)

 ├肺活量+++ 

 ├不死性+++++ 

 └異常耐性(毒+ / 呪術+++)

≪-≫武術

 ├棍棒術+++++ 

 ├投擲++++ 

 ├隠密++++++++ 

 └呼吸法++

≪-≫生産

 ├罠作成+

 ├裁縫+

 └測量

≪-≫特殊

 ├宝石魔術+++ new

 └吸魂+++++++




 勉強の結果が出たのか、クロエがついに魔術スキルを獲得した。第一階層の枯れ川の底から拾ったくず宝石でたくさん練習した甲斐があったというものだ。さっそくスキルポイントを大量につぎ込んで、クロエには宝石魔術を身につけてもらうことにする。


 問題は俺だ。【喜捨の祭壇】の結果、直感スキルと血液魔術スキルを身に着けた。

 しかし、直感スキルはぶっちゃけると何が変わったのか分からない。血液魔術も正直どんなものかさっぱり不明である。

 後者に関してはようやく造血スキルが活きそう(?)な新技能だが、どんな効果なのかクネシヤ魔術院の蔵書をあさって調べる必要がありそうだった。


(……血液魔術は、さすがに決定力不足を打破する鍵にはならないかな)


 もうちょっとわかりやすい技能が手に入ったら検討の余地もあったのだが。






 掲示板 【魔法科の劣等生】クネシヤ魔術院 451【筋肉で解決や】


 713:名無しの冒険者

 あのずぶ濡れの獣人の子? 悪魔を研究しているあの子ってなんでいじめられてるの?


 714:名無しの冒険者

 よくわからん

 あの子と同じクラスになったことないし


 715:名無しの冒険者

(この書き込みは消去されました)


 716:名無しの冒険者

(この書き込みは消去されました)


 717:名無しの冒険者

 名前も専攻も知らないけど、生物室の生体サンプルを盗んだり、勝手に寮のお菓子を盗んで食べたりしているらしいよ

 それをいつも注意するチェルシーさまとは仲が悪い


 718:名無しの冒険者

(この書き込みは消去されました)


 719:名無しの冒険者

(この書き込みは消去されました)


 720:名無しの冒険者

 すげえ書き込み消えてるんやけど

 こわ


 721:名無しの冒険者

 あいつの話するとこうなるから嫌われてる

 よくいじめられてるよ


 723:名無しの冒険者

 つーか、チェルシーさまって、いつの間にか今年の純魔力学部の首席なんやな

 いっつも悪ふざけでマギア・マエストロ予想スレの候補に名前入ってるけど、今年はガチでワンチャンあるんちゃうか?


 724:名無しの冒険者

 チェルシーさまhshs


 726:名無しの冒険者

 かつて成績最悪の脳筋パリィが卒業直前に【マギア・マエストロ】もぎ取ったからな

 今年も大番狂わせあるんちゃうか


 728:名無しの冒険者

 あればパリィいじめてた陰キャがワンパンされただけやろwww

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