「お菓子をくれなきゃいたず『いたずらの方で』......あ、うん」

赤茄子橄

本文

りょう〜。ばぁっ! トリックオアトリートぉ〜! お菓子をくれなきゃいたず『いたずらの方で』......あ、うん」



 ......え?


「いたずらの方でお願いします」

「え、あ、うん......うん?」

「ん? いたずらの『聞こえてるよ!』......あ、そうなんですか?」



 今日は10月31日、いわゆるハロウィンの日。


 とある地域では同年代くらいの子たちが暴れまわったりしてたりするらしい。

 事故も起きたりしてるみたいだし、中には過剰に盛り上がりすぎている人たちもいるっぽい。


 だけど、私たちは例年、家でいつも通りの日常。

 いろんなお店がイベントしてたりするっていうのはともかく、元々ハロウィンなんてこの国じゃあ特別なイベントでもなんでもない。


 りょうも興味なさそうだったからスルーしてきたんだけど。


 だけど今年は珍しくイベントに乗っかってみることにした。


 大学も4年目の今、卒論が忙しくてストレスが溜まってたところに、テレビでハロウィン特集やってるのを見て、私もやってみようかなって。

 それだけのかるぅ〜い気持ちでやってみただけ。


 なんだけど......なんか燎の反応が思ってたのと違ったな......?

 ちょっとイチャイチャして、お菓子くれたらそれでよかったんだけど......?


「え、いたずらの方なの?」

「はい。お菓子ないので、いたずらでお願いします」



 真面目な顔で何言ってるんだろ、この子は......。


「っていうか、早くいたずらしてください。何してるんですか、まだですか、楽しみすぎて待ちきれないんですが」



 燎が壊れちゃった......。

 私が1歳の頃からずっと一緒だから、もう知り合って20年くらい経つけど、ここまでバグっちゃってるのは初めて見た......。


 っていうか、お菓子もらうくらいのつもりでノリで言ってみただけだからいたずらとか考えてなかった......。


「えーっと、あはは。ご、ごめんね。いたずらって考えてなかったや......。冷蔵庫から勝手に何かもらっておくね......。だからトリックいたずらじゃなくてトリートお菓子で手を打つってことに......『ダメです。早くいたずらしてください』............はぇ?」



 え、なに......。

 食い気味だし、意味分かんないし、燎の目が血走ってる気がするし、いつもより声低いし、なんかちょっと怖いんだけど......。


「はぁ、はぁ、はぁ............。愛火璃あかりさん、恥ずかしがらなくていいんで、早くいたずらしてください」

「え......あ......なんか、ごめんね?」



 息上がってるし、燎ってば、どうしちゃったんだろ......?

 もしかして......体調悪い、のかな?


「え、なんで愛火璃さん、『意味わからないんだけど?』みたいな顔してるんですか。そんな・・・あからさまな・・・・・・装い・・までしておいて」

「え? あからさまって?」



 うーんと、なにがあからさまなんだろ?


 あ、もしかして、このコスプレかな?

 確かにあからさまにハロウィンって感じの衣装だし、ハロウィンやる気満々なのにいたずらの1つも考えてなかったなんて準備が不十分じゃないかってことか。


「あぁ、ごめんね。思いつきでハロウィンしてみようかなって思っただけなんだぁ」



「いやいや、それ、僕に下品ないたずらするために着てくれたんですよね。ほとんど下着みたいなもんだし。ヤる気満々ってことですよね? ようやく僕にハジメテをくれる気になったんでしょ?」

「ひゃっ! ち、違うよ! そういうわけじゃなかったの! 単にお店で売ってたコスがこれしか残ってなかったから!」



 そ、そういうことかー! 確かに私もこれはハレンチすぎるかなって思ってたんだけど!

 でもそういうのじゃないから!


「私も、これ、ただの黒のスケスケネグリジェにしか見えなかったんだけど、パッケージには小悪魔風コスプレって書いてたから、いやらしいものじゃないの! ほら、背中に悪魔っぽい羽だってついでるでしょ? だから、そういうつもりじゃないの!」



 黒のシースルーの下着みたいな柄のコスチューム。

 安かったし、SNSだとこういう格好して外でハロウィン参加してる子たちもいるくらいだし、そこまでおかしくないはず......。

 流石に外では着る気ないけど、幼馴染で彼氏の燎と2人っきりの部屋の中でくらいなら、いいよねって思っただけ!


 ずっと言ってるはずだけど、私たちは結婚するまでやらしいのはなしだよっ!


 だって......恥ずかしいもん。ハジメテはすっごい痛いって聞くし......。

 それに............。


「は?」



 ビクッ。


「へぇ。愛火璃さん、そんな格好で僕のこと煽っておいて、この期に及んでまだおあずけするんですか、そうですか」

「わ、私、そんなつもり全然なくて。私達、大学卒業して結婚するまでそういうのはなしでって話、してるじゃない? 私、バージンロードをバージンで歩くのが夢だって。約束、だもんね?」



 私が中学1年、燎が小学6年生のときにお付き合いを始めて以来、私の適当な嘘の夢も信じてくれて。

 燎が大学に入って一人暮らしを始めてからは半分同棲もしてるようなものだけど、燎は律儀に手は出さないで約束を守ってくれてる。


 だから今日も、大丈夫、だよね?


 高校の頃に燎経由で出会ったお友達カップル......というかもう夫婦か......。ともかく、あの子たちはすでにいっぱいシてるみたいだし、なんなら今年1人目の赤ちゃん生まれてたけど、私達はもうしばらく清い交際を続けるもんねっ!

 燎も、1歳だけとはいえ、お姉さんな私の魅力にメロメロで、私の言うことには素直に従ってくれるわけだし。


 ハジメテで下手すぎて、年上の威厳とか魅力とかがなくなっちゃたら困るからね。

 ただでさえ私は身長が150cmもないってだけでも子どもっぽく見えるのに、このAカップのまな板みたいな胸まで晒しちゃったら、いよいよ大人の色気から遠のいて飽きられちゃう。


 それで振られたりしたら絶望しちゃうし。

 結婚して燎が私から逃げられなくなるまでは、年上のヨユーと、私の身体への期待を揺るがすわけにはいかないんだっ!


 だから燎が凄んできたって、お姉さんは屈しないぞ!


「約束、ねぇ。確かにそういう話なわけですけどねぇ」

「だよねだよねっ。よしよし。ごめんねっ、私からハロウィン仕掛けたのにちゃんと考えてなくって。今後はちゃんとするからね〜」

「......はぁ」



 ため息つかれちゃったけど、この流れはいつも通りといえばいつも通り。

 ナデナデしながら謝っておけば、呆れながらも許してくれるもんね♪


 ちゃんと悪いところは反省して謝れる年上の余裕っぷりに今日も燎はメロメロなのでした♡













「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 ..................あれ? ため息長くない?

 っていうかいつもならここで「しょうがないですねぇ」って言って流してくれるところだと思うんだけど。





不知火愛火璃しらぬいあかりさん」

「はっ、はい! なんでしょうか惑衣燎まどいりょうくん!」



 えっ、何!? 声怖いよ!?


 っていうか、なんで急にフルネーム!?

 私もついフルネーム呼びで返しちゃったじゃん!


「あなたはパッケージに『コスプレ』衣装って書いてたら透明の服でも着るんですか? ヤる気もないのにそういう格好する痴女だったんですか?」

「そっ、そんな変態なことはしません! それに私は痴女じゃないから! こんな格好、燎の前でしかしないから!」



 まったく、失礼しちゃうよ!

 でも、もしかしてちょっと不安にさせちゃったかな?


「もぅ。チューしたげるから、機嫌直して?」



 チュッ♡


 へへっ、口の端っこにチューしちゃった。お昼からエッチすぎたかな?

 でも燎、いつもチューしてあげたら機嫌直してくれるし、これなら私も無様をさらさなくて済んでお姉さんの威厳も保てるし、ウィンウィンだよねっ。


「へー、そう。ここにきてそういうことするんですね。ってか、ここまでしといて本番なしとか、いい加減おかしくないですか?」

「......え?」



 あ、あれっ、燎の機嫌が良くならない!?

 どういうことなの!?


「この際だからちゃんと話そうと思うんですけど、もう僕ら付き合って9年以上経ってますよね」

「え? う、うん、そうだね」



 えー、せっかく楽しいハロウィンになるかな〜ってつもりだったのに、お説教なのかな......。

 えっと、付き合いだしてからかぁ。うん、9年と6ヶ月くらい経ってるね。


「僕はもうすぐ21歳になるし、愛火璃さんももうちょいで22歳ですよね」

「は、はい」



 だね、あと1ヶ月ちょいで2人とも誕生日だもんね。


「半年くらい前にはぜん冶綸やいとちゃんのところに癒乃ゆのちゃんも生まれたよね?」

「そ、そうだね。可愛いよね」



 高校時代からのお友達。燎の同級生の誘繕いざなぜんくんと帝釈冶綸たいしゃくやいとちゃんのこと、ちょうど私もさっき思い出してたところだよ。

 2人の結婚式にも一緒に出たし、生まれたばっかりの子の癒乃ちゃんもみせてもらったけど、すごく可愛かったよね。


 やっぱり私達、同じこと考えてるし、以心伝心のラブラブだね?

 だからいつもの燎に戻って?


 っていうか、燎ってば、何が言いたいんだろ......?


「いい加減我慢も限界なんですよね。毎日風呂上がりの色っぽい姿とか、寝起きの無防備な姿とか、その他諸々、ムラつく格好見せつけられて。それでも愛火璃さんが『結婚するまで待って』とかお願いするから我慢してきたわけなんですけど」

「え、えー......。そんなこと思ってたのぉ? へ、変態さんだぁ......」



 燎ってば、私のことそんなえっちな目で見てたの!?


「いや普通でしょ。まぁね? 僕も身体の関係がないとダメだなんて思ってないですよ? でも、最近、ここまで頑なに拒まれるって流石になんかおかしくないかなって思っちゃっててですね」

「は、はぁ」


「もしかしたら愛火璃さん、僕と付き合うの、嫌なのかなって。幼馴染のよしみで付き合ってくれてるだけなのかなって。いや、先に告白してきたのは愛火璃さんだからそれはないだろって思いつつも、だんだん疑念が膨らんできてですね」

「は、はぁ!?!?」


「年下で頼りない僕なんかじゃなくて、同級生とか、先輩とかに心惹かれてるのかなって。愛火璃さん、もう4回生だし。今日の衣装も、ゼミの人とかに唆されたりして、他の男の前でもそういう格好するのかなって」

「そ、そんなわけないじゃん!」


「そう考えたら、僕とヤリたがらないのは、精神的に嫌ってだけじゃなく、すでに誰かとシたことを僕にバレないようにするためかもって。もしそうなら辻褄あうじゃんって気づいたんですよね」

「私の話も聞いてよ! 悪い風に考えすぎだよ! 私の性格知ってるでしょ!? 私が好きなのは昔も今も燎だけだから!」



 ありえないから! 私が燎以外の男なんて見るわけないし!

 私が浮気とかそういうの絶対許せない質なの、燎だって知ってるはずでしょ!


「へぇ。それじゃあ、なんでそこまで頑ななんですか?」

「だ、だから私は......」


「バージンロードをバージンで歩きたいとかいうのが嘘なことくらいは最初からわかってるんですよ。ただでさえ愛火璃さんはわかりやすい性格してますし、20年も毎日のように一緒にいて、その程度の嘘が見抜けないわけないですしね」

「え。う、嘘......」



 え、え、え、え。嘘嘘......ば、バレてた!?

 っていうかそれ嘘ってバレてたってことは......なんで今まで燎は私に手を出さないでいてくれてたの!?


「今までは、愛火璃さんがシたくないっていうなら無理にとは思ってませんでしたし、それを無視して無理矢理にシても愛火璃さんが傷つくだけだと思って我慢してきました。なんか事情があるんだろうなって」



 ............なんて大人な考え方なの......。

 あんまり大人な対応とられちゃったら、まるで私が子どもっぽい理由で行為を避けてたみたいに聞こえるじゃん!


「ですけど、そんな裸みたいな格好で煽っておきながら、まだダメですって? 僕のことナメてます?」

「な、ナメてないよ!」


「だったらせめて、ホントの理由を教えて下さいよ......」



 くっ......!

 そんなカワイイ落ち込み顔してお姉さんを誘惑するなんて、ずるいぞっ!


 はぁ......しょうがないか。


「..................どんな理由でも文句言ったり、私のこと嫌いになったりしない......?」


「浮気してたりとかだったら嫌いになりますし、文句言いますし、今から襲います」

「ひえっ!」



 こわっ!


 でも嘘もバレちゃうんじゃ、本当のことを言うしかない、よね。

 長年隠してたせいで余計に恥ずかしいけど、これは自業自得かぁ。


「いやぁ、そのね? なんていうかぁ、私、燎よりもお姉さんじゃない?」

「えぇ、まぁ、そうですね」


「それでさ? 燎はそんな私のことが好きなわけじゃない?」

「ですね」


「だからさ? 大人なお姉さん好きの燎が私とえっちして、もしも私がめちゃくちゃ下手だったら幻滅されるかなって怖くて......」



 うぅ、こんなこと告白してる私、超ブザマ......。

 しかも痴女みたいな格好で正座させられて......。

 大人の余裕皆無じゃん......。


 燎はどんな反応するんだろ......。



「は?」



 ビクッ。

 え、声低!? やっぱり幻滅しちゃった!? 急いで言い訳しないとっ。


「ち、違うの! 私、上手にできるから! だから嫌いにならないで!」






「..................それは、僕以外のやつと練習したりして上手くなってるってことですか?」

「違うから!」



 その誤解はアウトすぎ!

 ちゃんと説明するからぁ!



*****



「はぁ............。つまり愛火璃さんは、僕が余裕のある年上が好きだと思ってて、自分が子ども体型なのと初体験が下手で威厳なくなったら僕が嫌いになるかもって思ってて、結婚した後ならそれくらい許してもらえると思って引き伸ばしてた、と?」

「う、うん......。で、でも、子ども体型って言ってもお尻はしっかり大きいんだ、よ?」


「はぁ......そんなしょーもない理由で僕は10年近くも我慢させられてきたんですか............」

「しょ、しょーもないとは失礼な!」



 しかも、お尻の話は無視だし!

 ほんとに失礼しちゃうよ!


「いや、めちゃくちゃしょーもないでしょ。そもそも僕は愛火璃さんに大人の余裕を感じたこと自体が全くないですし、だいたい毎日愛火璃さんのブラ洗ってんの僕ですよ? たまには風呂場で見かけるときもあるわけですし。今更体型のこととかで好きな気持ちが変わるわけないですよね。むしろそこも含めて好きですし」

「うっ......」



 お、怒ってる......?


 で、でもでも。

 いつも優しくて穏やかな燎なら、可愛く誤魔化せば今回もなんだかんだで笑って許してくれる、よね?


「て、てへっ?」





「はぁ..................。愛火璃さん......」

「な、なにかな!?」





「トリックオアトリート」

「へぁ?」
















「お菓子をくれないと、いたずらしますよ?」



*****



「あ......あぅぅ............。もぅ......お嫁にいけない......。お菓子あげるって、言ったのに......。6時間もいたずら・・・・するなんて............」

「僕のお嫁さんになるんですから何も問題ありません。僕以外の男のお嫁になんて行かせませんから。っていうか、お菓子なんていりませんよ。愛火璃さんの極上の身体を食べさせてもらったわけですし。ごちそうさまでした。可愛かったですよ」


「うぅぅぅ......。私の威厳がぁ............」

「だから、威厳なんて最初からないんですって。それに、愛火璃さんの方も痛そうなのは最初だけで、後半は乱れてくれてましたし。威厳なんてなくたって愛火璃さんは僕の最高のお嫁さんですよ?」


「も、もう、おバカ。よしよしすんなよぉ〜。子ども扱いすんなぁ〜」

「大丈夫です、ただの女性扱いですから」



 結局、私は年上らしいリードとかなんにもできなくて、ただただ全部を燎に任せちゃった。

 しかも、燎に頂上まで優しく導かれて、余裕を見せるどころか、途中から気持ちよくてアヘり倒してカッコ悪いとこばっか見せちゃうし。


 その上、今も子どもをあやすみたいに頭を撫でられて......。


 いや、さっきまでの燎は獲物を仕留める獣みたいな感じもあったけどさ......。




 うぅ......私がハロウィンなんてやろうと思いさえしなかったら、こんな辱めは受けなくて済んだのに......!

 数時間前の私のバカ!


「それに、愛火璃さんにはすぐに子どもを身籠らせますから、子ども扱いするのは僕らの本当の子どもに対してですよ。あなたが、ママになるんですよ?」

「ひえっ」



 子ども扱いじゃないのは嬉しいけど!

 目が恐いよぉ!


「覚悟しておいてくださいね。とりあえず、今までの分も回収するために、今日も朝まで耕して種まきしますからね〜。ハロウィンはもともと、豊穣を祈る収穫祭だという話ですし、ちょうどいいですね。ついでに、明日も休みですし、明後日の朝まで頑張りましょうかね?」

「もっ、もう辞めとかない?」



 もうヘトヘトだし、これ以上は恥ずかしい姿さらすだけになっちゃう!

 っていうか、明日もずっとなんて体力保たないよ!


「ダメです。愛火璃さんが僕に恥ずかしい姿を晒すのに慣れるまで、いたずらし続けますから」

「そ、そんなぁ............。ハロウィンは今日だけなのにぃ............」











 結果的に、多分、この日の燎からのいたずら・・・・で、私たちの子どもができたっぽい。

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「お菓子をくれなきゃいたず『いたずらの方で』......あ、うん」 赤茄子橄 @olivie_pomodoro

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