Chapter 3-8
僕が歩や三峰など、人に料理を振る舞った事はこれまでに何度かあるけれど、皆微妙な顔をしていたのはこういう事だったんだなぁと、僕は思い返しながらうるっときていた。申し訳ないとしか言いようがない。
そう言えば、初めて家の厨房でフライパンを握った日、僕に料理を教えてやると言った父が、「慎之介、料理は火力が命だ!!」とか言って火力を最大にして、あわや火事寸前という所まで行って厨房から親子共々締め出されたっけ。
あれ以来、家の厨房には入った事がなかったけど、それはそうだよなぁ……。
って言うか、思いっきりあの人のせいじゃないか!
僕の料理下手の原因は父だと思い至り、僕は内心で憤慨する。我ながら責任転嫁も甚だしいとは思うけれど、厨房に入れなくなったのは父のせいだからなぁ。
あの人、普段は忙しいからって僕の世話をメイドさんたちに任せきりにしているが、時々時間ができたら何か教えてくれようとするんだけど……。
まあ、お察しの通り大体が碌でもない事である。あまりいい思い出はないけれど、父に悪気があった訳ではないし、せっかく一人息子の為に作れた時間を特別なものにしたいという想いは、幼いながらに感じていたのでそれは構わないのだけれど、料理の件はすっかり忘れていた。
こればっかりは色んな人に迷惑を掛けているので、原因を作った父に対して憤るのも赦して欲しい。あんなもの食べろと言われたら困るよ、そりゃあ。
とまあ、今度会ったら一回とっちめようという思いを内に秘めつつ、僕らは「ダルいので帰るー」と言う茅先生と共に保健室を出た。
「そいじゃ、気を付けるのよー」
「はい、先生もお気を付けて」
「早く寝なきゃ駄目っすよ」
「赤西君、心配してくれるのぉー?」
「そりゃするでしょ、体調悪そうなんですから」
「でも一緒には帰ってくれないのねぇ。先生、寂しいわぁ」
茅先生は本当に体調が悪いのかと疑いたくなるくらい、くねくねと身体をしならせて歩に訴える。
これに流石の歩も呆れた様子で、
「しょうがねぇなぁ……。んじゃ、みんな呼んで来ますから、一緒に帰りますか?」
この歩の返答が予想外だったのだろう、茅先生はギョッと目を見開いた。
「あれ? あの、いつもみたいに適当にいなすとかそういう感じじゃ……」
「それでいいんなら早く帰ってくださいよ、体調悪いんですから」
「だ、ダメダメダメ! 一緒に帰るわよぉ!」
「はいはい、んじゃあ一回戻るか。シンもそれでいいよな?」
「勿論。歩が断るなら僕が送って行こうと思っていた所だよ」
「冴木君に送ってもらうくらいなら一人で帰るわよ」
なんか真顔で言われた。ぐすん。
「ああ、いや、姉に怒られるのよぉ、そんな事したら。わたくしの主人になんて事をさせているんだ、って」
あまりにも僕が悲しそうな顔をしていたのか、茅先生は慌ててフォローを入れてくれた。
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