Chapter 3-7

「――はっ!? 僕は一体……!?」

「てめーの作った料理の不味さで気絶してたんだよ」


 気が付くと僕はベッドの上にいた。

 傍らには歩がいて、僕の問いにすぐに答えてくれた。


「ぼ、僕の作ったものが不味いだって? 馬鹿も休み休み言ってくれたまえよ、歩」

「ほー。なら気絶するくらい美味かったって事か、あれが?」

「……済みません、滅茶苦茶不味かったです」


 だってあれ、料理じゃないよ。炭だぜ?

 平謝りすると、「分かればよし」と言う歩に僕はここがどこか訊ねる。


「保健室だよ。ここまでお前を運んでくるの、大変だったんだからな」

「……ありがとうございます」

「でもこれでよく分かったろ。お前、料理の才能ねーよ。それを気付かせる為に俺も三峰さんも、昔から色々やってきたけど、あんな方法があったなんてな」


 一之瀬君の事か。確かに。僕自身に食べさせるという荒療治は功を奏した訳で、こうして僕は「自分が料理が下手だ」という自覚を持つに至った訳である。


「……で、何お前はちゃっかり一之瀬さんにあーんしてもらってんだろうなぁ?」

「……………………あ」

「この口かこの口かこの野郎!」


 マズイ、と思った時には歩は既に僕の頬を両手でつねろうとして来ていた。

 僕が必死に防御していると、


「こーら、赤西くぅん。保健室では静かになさーい」


 制止の声が掛かり、ベッドの周囲を覆うようなカーテンが開く。

 顔を見せたのは白衣を着た眼鏡の女性だった。長めの髪は癖が強く、いつもしんどそうな顔をしているのでちょっとアレだけど、しゃきっとしていれば結構な美人だ。

 茅千歳ちとせ先生。この学校の保険医である。茅と言う名前にピンと来た人もいるかもしれないが、ウチで働く茅さんの実の妹さんだ。


「冴木君、起きたー?」

「はい。済みません、ご迷惑をお掛けして」

「ううん、こちらこそいつも姉が世話になってるしー。顔色も悪くないし、大丈夫そうねー。……それじゃ、先生はダルいのでもう帰りますー」


 ぐでっと茅先生は脱力して歩に寄り掛かる。


「赤西くぅん、連れて帰ってー」

「何言ってんすか。いい大人なんだから一人で帰れるでしょ?」

「ええー。体調不良の人を一人で帰らせるのぉー?」

「いやいや、先生のいつもの事じゃないですか。ほら、保健室空けてもらっててありがとうございました」

「ちぇー」


 と、ふらっと逆に倒れそうな勢いで歩から離れ、茅先生は帰り支度を始める。

 見てお分かり頂けたかと思うが、彼女も歩に対して気がある……かもしれない。いつもこうやって歩にちょっかい掛けては適当にあしらわれるのだ。

 その顔は結構赤くて、確かにどこか熱っぽい。冗談めかして言っているが、体調が悪いのは本当らしい。……まあ、いつもの事なのだけれど。


 毎回会う度に思うけど、保健室の主があんな病弱ダウナー系で大丈夫なのかな、この学校。

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