Chapter 1-7

「優勝おめでとうございます、一之瀬先輩!」


 女生徒は一之瀬君とハイタッチを交わした。正直かなりの美少女である。大きな瞳が印象的な小顔で、ポニーテールがハツラツさを演出している。背は低いが、出る所はしっかり出ている、なんと言うかわがままな体付きだ。


 一之瀬君を先輩と呼ぶという事は、一年生か。この春入学してきたばかりの一年生とここまで親しい仲なのは、同じ中学だったりしたからだろうか。


「ありがとう、このみちゃん」

「へぇ。二人はどういう知り合いなんだい?」

「うん、紹介するね。笠原かさはらこのみちゃん。中学校の時の部活で一緒だったんだ」

「よろしくお願いします、先輩方」

「成程、やっぱりそういう事だったんだね」


 予想的中。流石僕、とポーズを決めるが、


「あ。あれは放っといていいから。俺は一之瀬さんと同じクラスの赤西歩。こちらこそよろしくな」

「同じく、三峰真綾だ。よろしく、笠原さん」


 と、お構いなく自己紹介が進む。むむぅ。


「あ、あはは……。せ、先輩は?」

「よくぞ訊いてくれたね、笠原君! 僕こそこのグループのリーダー、冴木――」

「一之瀬さんの中学の時の部活って何だったの?」

「おいちょっと待て歩」

「うるせぇな。騒がしい人がいますーって店員さん呼ぶぞ」

「済みません静かにしてます続けてください」


 一之瀬君に質問してる所を遮ったので怒られました。


「私、中学の時はバスケやってたんだ」

「え、そうなの? じゃあ一之瀬さんもバスケに出ればよかったのに」

「いや、女子の種目にバスケないからね。女子はテニスだからね」


 我らが陽乃坂高校の球技大会では、コートの数の関係で、バスケは男子、テニスは女子の専門競技となっている。

 ともかく、つい口が出てしまった為に歩が視線をこちらに向けるが、その瞬間に僕も目を逸らす。


 その間に言葉を続けたのは、笠原君だった。


「でもよかったですよ、先輩と同じ高校に入れて」

「このみちゃん、それじゃあ私を追っかけて高校選んだみたいに聞こえるよ?」

「間違ってませんよ、それ! あたし、一之瀬先輩の事大好きですもんっ!」


 笠原君はガバッと言う音が鳴りそうな勢いで一之瀬君に抱き着く。なんと言うか、眼福です。ありがとうございます。


 と、ここで何故か彼女は歩に視線を送った。


「赤西先輩、でしたっけ?」

「お、おう」

「球技大会、優勝おめでとうございます。すごいシュート決めたらしいですね」

「いや、あれはシンがいいパスくれたから……」


 そうそう、そこ大事な所だよ。


「らしいですね。でも、そんな場面で決められる赤西先輩も相当ですよ」


 笠原君は一之瀬君から離れ、続ける。なんだか挑戦的な眼だ。ただ褒めているだけのようには見えないけれど……。


「あたし、高校でもバスケ部に入りました。あたしとバスケで勝負しませんか? あたしの一之瀬先輩に相応しいかどうか、確かめてあげます!」

「こここ、このみちゃん!?」


 これはあれだ。この子、歩が一之瀬君を好きな事も、一之瀬君が歩を好きな事も知っている。

 それでここぞとばかりに勝負をふっかけてきたのだ。


「いや、いきなりそんなこと言われてもな……」

「あれー? 一之瀬先輩の前で逃げるんですか?」


 あ。あかん。笠原君の挑発に、隣でなにかが切れる音がした。


「いいぜ、面白そうじゃん。いつにする?」

「それじゃあ、明日の放課後、体育館で」


 そうして、笠原君は一緒に入って来た友達の元へ戻って行った。


 静寂が戻ってきたテーブルのなかで、一之瀬君だけが未だにあたふたしていた。

 そんな一之瀬君の頭に手を置き、これまで静観していた三峰が口を開く。


「それで赤西。勝算はあるのか?」

「いや、ないけど」

「だろうな。よし、この後は慎之介の家に行くぞ」


 うん?


「って、まさか……」

「ああ。そのまさか。……特訓だ!」

「やっぱりー!?」


 僕は、ガクッとうなだれる歩の肩を叩くことしかできなかった。

 さて、どうなることやら……。


 余談だけれど、全額払うつもりでカードを出したら、歩と一之瀬君に慌てて止められた。「見せびらかすな、金持ちー!」とか「冴木君って本当にお金持ちだったんだね……!」とか酷い言われようだった。ぐすん。


 というわけでお代は各自持ちとなり、帰路に就いたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る