第五章 終局

第37話 反対派の一掃 ルーベル辺境伯視点

「まさかあんなに堂々と新王擁立の話を出して、多くの貴族を味方にできるとはな」


帰りの馬車の中でルーベル辺境伯は護衛の1人に話しかけた。


「私もこういうことは秘密裏に計画するものだと思ってました。密かに血判状とかしたためたりして」


護衛も信じられないといった様子だ。


「エイという男の言った通りになったな」


ルーベル辺境伯がエイの言ったことを思い出していると、馬車の御者の女がルーベル辺境伯に話しかけてきた。


「明日からの反対派の討伐ですが、ダレン公爵とライデン伯爵を同時に攻めます。残りの3貴族はライデン伯爵を攻めた後に、もう一度、敵になるかどうかを確認します」


「……わかった」


この女、エイの手のものとのことだが、なぜ5貴族が敵に回ったこと、それにダレン公爵とライデン伯爵が含まれていたことがわかるのだ? あのホールにはいなかったはずだ。


まあ、いい。今までもアレン王子の指示に従っていれば問題なかった。素直に従うことこそが最良であるとの女神様のお告げに従うまでだ。ルーベル辺境伯はアレンの母の声を女神のお告げと信じていた。


「ダレン公爵とライデン伯爵に隣接している貴族には、ルーベル辺境伯からの使いということで、我々の手配のものが接触しました。ルーベル辺境伯には戦費の負担をお願いします」


女が報告を終えて前を向いた。


(戦費の負担などお安いご用だ。アレン王子のおかげで莫大な利益を上げられているからな)


ダレン公爵は王都の東、ライデン伯爵は王都の南に所領を持っている。


両家の所領は王都に近く、王室とも深い交流があり、有事には王家の戦力を動員する目論見でいたはずだ。


ほとんど兵力がない状態で、隣接する貴族から一斉に攻められては、仮に王家の兵力が動いたとしても、間に合わず1日で降伏するだろう。


反対する貴族を派兵して潰すなんて、まさにやりたい放題だ。ほとんど内戦だが、恐らく王家は全く動けないだろう。


***


翌朝、ダレン公爵領には北、東、南からそれぞれ2万の合計6万、ライデン伯爵領には西、南から2万、東から1万の合計5万の軍勢が隣接する領地から侵攻してきた。


今まで仲良くやってきた隣人からの突然の攻撃にダレン公爵領もライデン伯爵領も全く対応できない。


進軍した貴族には占領した領地をそのまま治めてよい、と新王から許可をもらっていると使者はそれぞれの当主に伝えている。


ただし、略奪は禁止だ。略奪が発覚した場合には、新王の敵とみなすと伝えてある。


そのため、各貴族は軍に略奪の禁止を徹底した。軍費は新王が負担するとのお墨付きがあるため、略奪する必要はないし、自分たちの領民になるのであるから、しない方がいいに決まっている。


また、早く進軍していかないと、中心部を自分の領地にできないため、周辺の村になど構っていられない。


各貴族の軍隊は電光石火で次々に重要拠点を攻め落とし、当主が首都から帰る前に領主の居城を陥落させたのであった。


なお、ダレン公爵領にいたスティーブ王子は捕縛され、自身が今まで住んでいた城の牢に投獄された。


帰る領地がなくなってしまったダレン公爵領とライデン伯爵領は、王都に戻って、王にルーベル辺境伯の暴挙を訴えたが、王は力なく首を横に振るだけだった。

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