第36話 新王擁立の動き

デイビスがレンガ王国で拉致されてから半年が経過した。


エルグランドでは王家の財政の立て直しが急務であった。


「貴族に税を課すしかないです」


というのが宰相マルコスの案だ。


エルグランドは50の領地を50の貴族が収め、王家にはこれらの領地持ちの貴族が、毎年定額の納付金を納めるだけとなっている。


貴族に対して、農作物の収穫量に応じた課税を行う新課税制度の導入がマルコス案であった。


当然のことながら、貴族からの反発は必至であった。


そのため、王家は不退転の覚悟で、一致団結して税制改革に臨む必要があるのだが、王子のスティーブが貴族側にマルコス策をリークした。


リチャードは王位継承の予定で王家の直轄領を継承するが、スティーブは婿入りしている貴族の土地を継承する予定だったからだ。


現在の王家は官吏や兵士の給与支給の遅延が発生するほど困窮しており、軍事力も今後は落ちていく一方であるのが目に見えているため、軍事的に貴族と対抗できるうちに新課税の導入を行う必要があった。


ところが、スティーブの裏切りにより、新課税案を推進する前に、王は貴族に突き上げられ、マルコスを罷免することで、ようやく貴族たちをなだめることができた。


今回の騒動で王都に全貴族の当主本人や代理人が押し寄せる結果となったが、この機会に国政を見直してみないか、とルーベル辺境伯から声をかけられ、全貴族が王都のダンスホールに集まった。


今や軍事力、経済力、技術力において、王国随一の大貴族となったルーベル辺境伯の誘いを断る貴族はいない。


ダンスホールに集まった貴族は、王都が以前とはまるで違って、廃れてしまっているのを見て、


「王家にはもはや統治能力はないのではないか」


という疑念を抱き始めていた。


そんな貴族たちの疑念が、疑念ではなく事実であることを、ルーベル辺境伯が説明することになる。


壇上に上がったルーベル辺境伯は


国内で一番困窮しているのが王家であり、人民は今も流出し続けて財政が破綻していること


給与の遅延で上官の命令に従わない兵士が増えて軍事力も崩壊していること


をよく通る声で説明した後、ホールにいる貴族たちに選択を突き付けた。


「単刀直入にお伺いします。今の王位の存続を支援しますか? それとも新王を迎え入れますか?」


爆弾発言にホール内はざわついた。


「新王とは誰なのですか?」


親王派と目されているライデン伯爵から質問が上がった。


「レンガ王国のアレン王です。現王の第5王子で血統も問題ない」


「王の子ではないと言われているぞ」


スティーブが婿入りしているダレン公爵からの発言だ。


「祝福の儀で7神の柱に細工をしたことがわかっています。あの日、アレン王子は7人の神から祝福を受けていました。実行犯の枢機卿はすでに神の裁きを受けていますが、実行を指示したデイビス王子も証言するとおっしゃっておられますし、教皇様も証言するとおっしゃっておられます」


ルーベル辺境伯は淡々と反論した。


ホール内はますまずざわつきが大きくなってきた。


ルーベル辺境伯はもう一度大きな声で選択を迫った。


「採決を採りたいと思います。新王を迎え入れることに賛成の方々は私のいる壇上の方に近づいてください。もちろん私は賛成です。反対の方は壇上から離れた壁の方に移動してください」


貴族たちは互いに顔を見合わせている。


「採決といいましたが、私は新王を迎え入れます。私の味方になるのか、敵になるのかを聞いています。どちらにしますか?」


50いる貴族のうち、大多数が壇上の方に移動した。


壁側に行く貴族はいないが、まだ10貴族ほどが真ん中あたりに残っている。


「どうされましたか? 決められないのですか? それとも中立なのでしょうか?」


「判断材料が少ないのではないだろうか」


発現したのは、またライデン伯爵だ。


「了解です。この期に及んで材料が少ないという情報収集能力の欠如した貴族は味方に必要ありません。そちらの10貴族は我々の敵ということでよろしいですね?」


5つの貴族が壇上に慌てて近づいた。


ダレン公爵、ライデン伯爵を含めた残りの5つの貴族は動かないと決めたようだ。


「そちらの貴族の方々、明日、貴殿たちの領地に攻め込みます」


「なっ」


「私の敵になるというのは、そういうことです。では、解散します」


ルーベル辺境伯は護衛とともにダンスホールを退出した。

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