第10話「それ俺に聞く??」
話に入る前に、秋仁には確認する事があった。
勿論それは、彼女が本物の葵かどうかである。
だが、コスプレ先が葵であるなら今までの様な確かめ方は出来ず。
(もし本物だったらヤバいどころじゃねーぞッ、せっかく家族として一歩踏み出したばかりだってのに……!!)
(なんだ? 何故そんな焦った顔で見る? そんなにアタシの言葉が意外だったか?)
(不味いッ、怪しんでる事気づかれたかッ!?)
(――――いや待て、兄さんの恋人予定の真衣は確か……)
葵は思い出した、愛する恋人・海恋が言っていた。
曰く、真衣は秋仁を何年もストーカーしてる危険な女だと。
そして、数日前に約束したばかりだ。
(あの時はつい、海恋を完コピしてくれると言われて喜んでしまったが。――もし、アタシを完コピできるなら?)
なるほど、秋仁が警戒する訳だと葵は嘆息した。
問題は、どうやって新人兄の警戒を解くか。
言葉では難しかろうと、そして兄には大きな借りがあるからと葵は。
「ふッ、真衣だと疑っているのか? ――今回だけだ、胸を直接触って確かめるといい」
「ッ!? チィッ、やっぱ真衣かテメェ!! とうとう葵の真似までしやがって――!」
「ぬおッ!? ご、誤解だ兄さん! アタシは本物の葵だ!」
「騙されねぇぞ……、お前はそうやって本人そっくりの口調で迫って来るんだ……、どーせ寝取られた鬱憤を発散してくださいっす、本物にできないコトしましょう? ってするんだろ分かってんだぞコッチは悪魔よ去れえええええええええええええええ!!」
「悪いことは言わない、今すぐ別れた方が良いぞ。何なら間にアタシが入ろう」
「お、オマエッ!? さては真衣の偽物だな本物の真衣を何処にやった葵の真似しやがって!! 真衣がそんなに殊勝な台詞を言う訳がねぇ!!」
「アタシが真衣ではないなら、アタシこそが本物の葵ではないか?」
「…………あれ??」
秋仁は思わず首を傾げた、そしてまじまじと彼女を見る。
ポニーテールで長身のモデル体型である葵は、足を見れば素足。
小柄な真衣ならば、ブーツやヒールで底上げしないと違和感甚だしいだろう。
「納得してくれたか? おっぱい揉むか? 揉んだら殴るが」
「納得したし揉ねぇよッ!!」
「ふむ、ならば座るといい。ケーキと珈琲もある。是非とも相談に乗って欲しい」
「相談って……まぁいいけどさ」
果たして相談とは何か、彼女は美人が故に悩みも多いだろう。
もしかすると、家関係かもしれない。
そういえば家事の分担すら決めてなかった、秋仁はそう当たりをつけたが。
「――――実はな、海恋とのセックスの事なんだ」
「それ俺に聞くのかテメェ!? 嫌味か? 喧嘩売ってんのか葵!」
「待て待てそう怒るな、アタシとしても最終手段なんだ、このままだと海恋と破局してしまうかもしれないんだ! 恥を忍んで頼む、助けてくれ兄さん!!」
「お前なぁ……」
テーブルに頭を付けて頼み込む義妹に、秋仁としては大きな溜息しか出ない。
何が悲しくて、恋人を寝取ったレズ女のセックス事情に口を挟まなくてはならないのか。
だが海恋も関わってくる以上、無視することは出来ず。
「俺だって海恋とは一度しかセックスしてねぇんだ、力になれねぇぞ?」
「聞くだけ聞いてくれ、――――実はな、どうも最初のセックス以降、海恋が事後に物足りなさそうにしてるんだ」
「…………お前が下手でイッた演技してんじゃねーの、ま、俺の時はそうだったんだけどなチクショウッ!!」
「くっ、生々しく想像してしまったではないか兄さんっ、ああっ、海恋が兄さんに抱かれていたと思うと脳が壊れそうだ!!」
「コッチの台詞だアホ!! 俺こそあの日の衝撃で脳が壊れる寸前だったんだよ!!」
頭を抱えて唸る兄妹、愛する者が、愛した者が、目の前の相手に抱かれているという地獄。
二人はお互いに睨みあうと、立ち上がって怒鳴り始める。
負けられない、不幸はコッチなのだと。
「優しくキスしてるのに不満そうなんだぞ兄さん! 何が足りないんだいったい!!」
「うっせぇバーカッ、俺なんかキスしたら涙目で拒否られたんだぞ!! 直前まで超良い雰囲気でそれだぞ、嫌味かテメェ!!」
「嫌味なんて言う余裕なんか無い!! アタシは海恋が兄さんとやり直したいからセックスに集中してくれないのかもって不安なんだ!! 海恋は本当にアタシを恋人に思ってくれてるのか不安なんだ!」
「優しくしてっからだよバカ、海恋は自分からリードするか捩じ伏せられるかの2択なんだよ!! それからなぁ、アイツが愛してない相手と例え襲われてもセックスしねぇんだよ!!」
勢いのままに口走った二人、相手の台詞をよくよく考えて。
「…………え、それ本当なのか兄さん?」
「お前……、思ったよりピュアなんだな」
「……」「……」
秋仁と葵の視線が絡み合う、どちらも海恋に真剣で。
同じ女に惚れたという共通点が今、兄妹の間に何かを産もうとしていた。
二人は徐ろに右手を差し出し、そのまま握手する。
「アタシは海恋の事を兄さんに謝らない、けど――」
「謝る必要なんてねぇ、俺も必要としてない、だから――」
「必ず幸せにする」
「必ず幸せにしろ」
託した者、託された者、二人は二人だけの納得を得た。
誰に理解されなくてもいい、家族より強い絆が今の秋仁と葵にはある。
「よし、酒買って来ようぜ葵! 今日は徹夜で海恋のことを語り合おう!!」
「乗ったぞ兄さん!! 共にスーパーに行こではないか!! 今日の酒代はアタシが出そうとも!」
「ふッ、ならば俺は海恋が好きなおつまみレシピを伝授してやろう……!!」
「なんと……くっ、なんて男らしいんだ兄さん! アタシがレズじゃなきゃ処女をあげたのに!!」
兄妹はいそいそと財布を持って、外出の準備。
そして部屋から出る瞬間、秋仁は微笑む。
「良い女だぜ葵……、海恋がいなきゃお前を好きになってたかもな」
「ああ、それは光栄だ」
キランと歯を輝かせ笑みを浮かべた葵であったが、少し首を傾げて疑問を口にした。
「……ふむ? では兄さん。その場合、真衣はどうなる?」
「…………真衣の事は言ってくれるな葵ッ、アイツは何がどうあってもストーカーで這い寄ってくる気がするんだよッ! なんで、なんで俺はあんな女に絆されてるんだ!」
「くっ、お労しや兄さん……、今日は呑んで忘れようぞ!!」
「葵!」「兄さん!」
そして玄関扉を目の前にし、涙ながらに抱き合う二人。
次の瞬間であった、がちゃりと扉が開き。
「葵ちゃ~~ん、アナタの可愛い海恋が……………………何、してるの二人とも――って!? 何で二人して抱きついてくるの!?」
「おお、海恋! 俺の恋人だった女! 今日は呑むぞーーーー!!」
「愛してる海恋……今は兄さんと一緒にぎゅっとされてくれ。そして今日は徹夜で呑むぞ!!」
「え? ええっ!? 何があったのよ二人とも!?」
困惑する海恋の右腕を秋仁が、左腕を葵が。
兄妹は彼女を強制的に連行し、買い出しと酒盛りを決行。
際限なく呑んだものだから、秋仁は当然のように寝坊し次の日の昼である。
「うごごごご……、あったま痛ぇ……、しかも床で寝たから体も痛い……」
「あ、やっと起きましたね秋仁先輩? お二人は少し前に起きて大学行ったっすよ~~。はい、お水っす」
「サンキュ、――――はぁ、生き返っ……………………いや真衣? お前、それ、何? なんで家で水着っていうか、その生っぽい巨乳どうしたんだよテメェッ!! うう、叫んだら頭がぁ……」
「ふふーん、聞いて驚けっす秋仁先輩! とうとう水着を着てもバレない海恋先輩コスプレが完成したんです!!」
リビングにて、二日酔いの秋仁の目の前には。
オフショルダー型ビキニ、それも過激めで布面積が少なめの水着を着た真衣の姿があったのだった。
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