♰Chapter 13:暗躍の影

オレと水瀬は洋館に戻ると先に来ていた『盟主』に持っている情報を共有した。


「なるほど『心喰の夜魔』が本当に実在したとはね。それにすでに民間にも複数の死者が出ていることはとても見過ごせるものではない」

「その口振りだとやはり『盟主』も噂のことを気に掛けていたのか?」

「もちろんだ。組織として融通はしづらいこともあるが、それでも方々に鳩を飛ばしてその正体を掴もうとしていた。しかし結果が出る前にここ最近は頻繁に遺体が上がっているのが現状だ」


『盟主』はカーテンを閉めると部屋の明度を落とす。

そして長方形の端末を卓上に置いた。


「これはホログラムか?」


相当に高額な商品なため、あまり街中で見ることはない。

それにこれほど高精細なものが出回っているという事実を聞いたことがない。


「その通りだよ。民間で販売されてはいない高精細な物だがね。これを使って私の持ちうる情報を公開していこう」


そういうと早速多くのタスクを呼び出し必要な物を抜粋していく。


まず最初にアップされた情報はこれまでの二十名を超える人間の顔写真だった。

それぞれにローマ字表記の名前と一般人・ISCなどの帰属分類がなされている。


「彼らは『心喰の夜魔』という噂を〔幻影〕が認知し始めた頃からの死者――特に心臓を一突きにされた者だけを抜粋している。いずれの件も現場目撃者がいないうえに『心臓が一突き』という点をネックに表示しているため、無関係なものも含まれる可能性があることを前提にしてほしい」

「彼らに共通の特徴はなさそうですね」


水瀬の考察に『盟主』は首肯する。


「私もそう分析する。次にこちらを見てほしい」


次に表示された情報は東京二十三区のマップだった。

そこには赤い点で推定死亡日時と場所がプロットされている。


「こちらにも主な特徴はない。が、第一区と第七区、そして第十九区の三カ所のみ被害が出ていない。他は少なくとも一件以上の死者が出ているというのに、だ」


たしかにこの情報だけを見れば次点の犯行場所が絞り込めてくる。

だがそれは相手側が必ず一区につき一人以上の死者を出そうとしている場合のみだ。


「もう一つ、我々が魔法テロ組織〔約定〕に以前より潜伏させていた諜報員らと『心喰の夜魔』が出現し始めたあたりから連絡が取れなくなっている。恐らくはすでに死亡しているものと思われる」

「そんな……! 彼らは熟練した諜報活動の技能を持っていたはずです! それが同時に音信不通になるなんて……」


水瀬の動揺にオレも納得する。

『以前から』ということはそれなりの期間は潜伏できていたのだろう。

それが同時に処分されたとなると――なぜという疑問はあるがオレの抱く疑惑の種が芽を出した気がした。


だがここで安易に発言するとその人物に注目が向くことになりかねない。

そうなれば逃亡する可能性も十分にありうる。


オレが〔幻影〕に情報を上げるのは限りなく黒だと言い切れる情報が収集されてからだ。


「私自身も衝撃が大きい。『盟主』という立場上それを露わにすれば下の者が動揺しかねないからできないが。だがこれにより本件は魔法テロ組織〔約定〕による犯行の可能性が高いといえる。最後に総合的な敵の特性の予測を見てほしい」


そこには、


・物理防御力または魔法防御力、あるいはその両方が高い可能性

(ISCがことごとく死亡している点から)

・魔法による攻撃が防具を無効化する可能性

(同上の理由による)

・奇襲を得意とする可能性

(同上の理由による)

・複数犯であること

(同時間帯に複数箇所における死亡が確認されている点から)

・活動時間帯は午後八時から翌日の午前二時まで

(検証結果による)


と簡潔にまとめられていた。


「以上が私から『心喰の夜魔』を担当する君たちへの情報共有となる。引き続き八神君の魔法に関する知識および技術を高めること、そして可能な範囲での情報収集を進めてほしい」


終始硬い雰囲気のまま会議が終了した。

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