空蝉の文 希死念慮を抱えた17歳の逃避行

詩歩子

第1話 空蝉の告白


 聞こえる、聞こえる、ほらほら、聞こえる、僕らの骨を撃ち付けた銃声の音が。


 アスファルトの表面に悪意と群がった空蝉。


 余命幾許も無い蒼い燈火が地球上に墜落衛星のように地上に悪夢を見させる火球へと飛豹する。


 僕と固執する悪印象が生を全うして、怠惰な余生にピリオドを打った。


 僕らもミンミン蝉のように変身できたら、いっそのこと、十七年も地中を耐え抜き、すぐに天空へ舞い落ちるような、清らかで明白な人生を送れた筈だった。


 毎夜、生きて伸びても誰にも余罪を与えないような、誰も傷つけぬ蝸牛の如き、そんな意味深長な我が祖国に付随する、枯渇した我が人生。


 逃亡者と成った僕らは海嘯から避難するために大木によじ登る。


 樹皮に与する力がないからすぐさま、下界に落っこちる。


 夕闇と失墜すれば、もうすぐ、逮夜が忍び音を連れながらやってくる。


 夜這星が落ちる。


 油蝉が妖霊星の成れの果ての化身となって堕落する。


 何もかも地下深く、数多のクレーターを一瞬のうちに造成する。


 本当は大気圏の方が果てしなく無限大に広がっていると、最新科学では立証されているのに、僕らは地底のほうに深淵がある、と無意識のうちにこれでもか、と縋ってしまう。


 莫大な地下迷宮の通路が津々浦々に広がり、悪辣なミノタウルスが僕らを喰らおうとしているのも暫定している。




 僕らは十七歳だ。


 呪われた季節、呪われた時間、呪われた記憶。


 僕らはきっと、未来永劫、十七歳のままで、有為転変は世の習いにあらず、時流が停止してしまうだろう。


 小夜曲を聞きそびれ、我が身の後継を恨む。


 世界を冥土へと誘うのは誰か?


 僕らはまだ、狂騒曲の謳歌を希求していたのに些末な世界はすぐに年老いていく。


 僕らは甘っちょろい青二才だ。


 僕らは凶悪少年犯の可能性を秘めた愚図だ。


 無知蒙昧の少年Aと匿名に釘を刺す合羽を被らせる不束者だ。


 空蝉に少年少女という規定された概念はあるのだろうか?


 熊蝉は急速に大人になる。幼児から大人へと。


 その過程の確定された煩悶がない。


 几帳面に境界線は引かれ、大人と幼児しか、蝉には存在しない。


 今日もスマートフォンからネット検索したのち、検索ヒットの欄に煽情的な文字を僕は目撃した。


〝十四歳の二組の少年少女、青木ヶ原樹海の手前の麓の街にて、スマートフォンで撮影しながら心中を図る〟と青い蛍光色の画面上にはその藍色の文字だけが乱舞する平家螢のように踊っている。


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