自己紹介カード

 「今日は自己紹介カードを書くって言ったけど、何か考えてる?」

お姉ちゃんが言ったが、いつも元気な幼稚園生からも、誰からも返事がない。

「書くことは、学校みたいに決まってないから、真っ白な紙に、好きなように書いていいよ。私は、学校のだと、自分の似顔絵だけは苦手だったなあ。」

佳菜子が聞く。

「何でもいいの?」

「まあ、名前と何歳かと、それぐらい書いたら、あとは紙いっぱいに書くこと、かな。書きたいことがたくさんなら、もっと大きい紙にしてもいいし。かなこちゃんは、書くこと決まった?」

「決まって…ない。」

「いいよ。今考えよう。かなこちゃんは何が好きだったかなー。」

お姉ちゃんは、自分の小さいノートを見ながら考えている。何が書いてあるんだろう。佳菜子はお姉ちゃんの背中側から、覗いてみた。でも背が足りなくて見えない。

「お姉ちゃん、大きいよー。見えない。」

「えっ?見たい?でも、これは私の秘密のノートだから。"ひみつのへや"であったこととかを書いてるんだよ。だから、みんなの秘密も書いてある。もちろんかなこちゃんの秘密もね。」

「どんなこと?」

「うーん、かなこちゃんかわいいとか、かわいいとかかな。」

佳菜子は照れてしまった。お姉ちゃんも、なぜか照れているので、お兄さんが言う。

「そういうところがかわいいんだよー。さあ、考えていこう。考えたら、紙に書いていっていいよ。」

お兄さんは、真っ白な紙をみんなに2枚ずつ配った。この時点で、隆太郎は昨日より自然に行動できていることが嬉しかった。頬が緩んでいる。お兄さんがそれに気づいて、紙を配りながら声をかける。

「りゅうくん、にこにこだね。どうしたの?」

『なんでもないよ』

「そんなことまで書けるようになったか〜。」

そう言って、お兄さんは隆太郎の後ろに回って背中を少しくすぐった。隆太郎は首を縮めたが、笑っていた。お姉ちゃんはそれを見落とさず、言った。

「お兄さん、いいなー。私もりゅうくんとくすぐりっこしたいなー。」

「だってさ。りゅうくん、どう?」

隆太郎は笑顔で首を傾げた。

「まあいいや。いつでも待ってる!」

そう言ったお姉ちゃんを一瞥して、隆太郎はどんどんポケモンを描いていく。「岸山 隆太郎 11才」を丸で囲んで、その上からピカチュウが覗いている。男の子2人は、尊敬のまなざしで眺めていた。

「ゆうきくん、あいとくん、見たいのは分かるけど、自分のカードも書いてよ。」

それを聞いて、愛翔は名前も書いていない紙を見つめて、優希はお姉ちゃんを見つめた。

「絵を描くのが苦手だったら、文字だけでもいいよ。」

この言葉で優希は書き始めた。

「あいとくん、文字も難しい?」

愛翔はゆっくりうなずいた。

「じゃあ、この家にあるものしか書けないけど、好きなもの持ってきてくれる?それを書いてあげるよ。」

うなずくのも忘れて、愛翔は嬉しそうに1つだけおもちゃを持ってきた。けん玉。

「いいね。1つだけでいいの?分かった。大きく描くね。その間、けん玉してて。」

愛翔はもしかめを軽々とこなして、とめけんは2回で成功させた。碧の代わりに絵を描いていたお兄さんが、「あいとくん、すごいね!」と言ったのをきっかけに、みんなが注目しだした。緊張したが、愛翔はけん玉を持っているとなぜか動けた。次々と技を決めていく。失敗しても気にしていない。沈黙の中、愛翔が自然に出せる木の音が部屋に響いていた。

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