佳菜子の不安

 作戦会議、と称した世間話をしていると、時間は平等に過ぎて行くようで、次は佳菜子が起きてきた。お姉ちゃんが言う。

「かなこちゃん、おはよう。」

「ん…」

佳菜子の反応が悪い。お姉ちゃんはいくつか原因を予想した。お兄さんもそれを察知して、近くに来ていた。お兄さんはまず、最悪の状態を想定して、

「体調悪い?」

と聞いた。佳菜子は首を横に振る。なら、話を聞いていくしかない。

「動ける?まず座ろう。」

佳菜子は動かない。動きたくないのか、動かないのか。

 こういうときは、無理に座らせるよりも、佳菜子の気持ちがあるので、できるだけそれに沿うようにお兄さんやお姉ちゃんも行動する。立っている理由として、あとはこれしかないと思うものがお姉ちゃんにはあったが、どう聞こうか迷っていた。するとお兄さんが、代わりに言ってくれた。

「おはようって言いたかったか、言おうとしてるかのどっちかでしょ。違う?」

佳菜子は困った顔で、お兄さんを見た。

「そうか。違う?って聞いたら返事がしにくいね。じゃあ、おはようって言いたかったんだったら、お姉ちゃんの隣に座って。言おうとしてるんだったら、一歩前に出て。それ以外だったら、首を振って。」

お姉ちゃんが付け足す。

「困ったら、お兄さんの隣に座ってね。動いていいよ。」

佳菜子は少し迷ったあと、お兄さんの隣にちょこんと座った。

「そうだね。困るよね。今日はどうしたの?やっぱり、おはようって言いたかった?」

佳菜子の返事がないので、お姉ちゃんがまた言う。

「いつも、朝はちょっとがっかりしてるもんね。それはみんな分かってるよ。私もかなこちゃんにおはようって言ってもらいたいな。聞いてもいい?言えそう?おっ。じゃあ、せーので一緒に言おうか。せーの!」

「「おはよう。」」

「言えたじゃん。やったね!お兄さんもりゅうくんも、聞こえた?」

隆太郎はうなずき、お兄さんは「もちろん。」と言った。佳菜子も嬉しそうだった。

 優希は起きてくるといつものように、お姉ちゃんの近くに行って、お姉ちゃんがおはようとささやいてくれるのを待った。

「ゆうきくん、かなこちゃんもせーので一緒に言えたから、今日はそうやってみない?」

お姉ちゃんが聞くと、自信のない顔になって、優希は止まってしまった。

「ごめんごめん。私が調子に乗ってもいけないね。おはようゆうきくん。」

いつものように、お姉ちゃんは少し待ってから、優希におはようとささやいた。元気を取り戻した優希は、いつものように、小さい声で、おはようと返すことができた。

いつもと同じ、で安心する子もいる。しかし、挑戦したいときだってある。その差を見極めるのも、お兄さんとお姉ちゃんの大事な役割だった。

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