お姉ちゃんのこと

 みんなが隆太郎に注目しないようにお昼を食べて、次はお昼寝の時間だ。幼稚園生は毎日するが、小学生はどちらでもいい。

「ゆうきくんは朝早かったから寝ておいで。他のみんなは…どうする?あれ、ゆうきくん行かないの?迷ってる?」

優希はちょっと寂しかった。小学生が他に、一緒に寝るんだったら、眠いので寝たかったが、誰もいないなら遊んでいたかった。

「でも、眠いでしょ。私が一緒に寝るから。行こうよ。」

お姉ちゃんが優希の心を読む。ほっとして、優希は付いて行った。残されたのは、佳菜子と愛翔と隆太郎。そこにお兄さんが加わって、4人になった。お兄さんが言う。

「お姉ちゃんがどんな子か、知りたい?今なら教えられるよ。」

3人は一斉にうなずく。

「よし教えよう。まず、お姉ちゃんもみんなと同じで、学校では喋れない。自分と同じように困ってる子を助けたくてここに来た。それはみんな分かってるよね。それから、お姉ちゃんって何でもできるよね。正直、僕より面白いと思う。才能があるよね。でも、お姉ちゃんには弟がいてね、家でも話せなくなったり動けなくなったりすることがあったから、迷惑かけてるんじゃないかって思ってた。本当のことを言ったら、弟が悲しむと思って言えなくて、家にもいられなくなって、ここに来たっていうのもあるんだ。学校でも、苦しい思いをたくさんしてきたから、みんなの気持ちがよく分かる。どんなことでも分かってくれるよね。そういう子なんだよ、お姉ちゃんは。」

普段も静かな3人なのに、お姉ちゃんはめったに自分の話をしなかったから、みんな息を飲んだ。誰も、何も言わなかった。

そこへお姉ちゃんが帰ってきた。

「ゆうきくん寝た〜。あれ、みんなどうしたの、こっち見て。さては…私のこと話してたな〜?もう、お兄さんったら。まあいいけど。自分からも話すよ。…私には、双子みたいな弟がいて、何をするにもずっと一緒で、けんかもするけど本当に仲良しなんだ。でも、弟は普通で私は普通じゃなかった。親の心配を、全部、お姉ちゃんの私に使ってしまって、弟は親から何もされてないんじゃないかって心配になって、ここに来た。ここだったら、私が嫌だったこととかを無駄にせず年下の子たちに分けていけると思って。ここだったら、同じような子が集まってるから、全員に同じだけ心配とかが分かれるだろうなと思って。私のことは、大丈夫だよ。弟も、そんなにいろんなことを気にするような子じゃないから。私が気にしすぎてるだけだから。それより、今日はいろいろ動いて疲れただろうから、自分のことを心配してね。私が思うのは、それだけです。お兄さんの話と、被ってるかな。」

意を決して、3人は、それぞれ別の方法で話し始めた。まずは、佳菜子が声で。

「お姉ちゃん、弟のこと、好き?」

「うん。すっごいかわいくて、いい弟だよ。」

お姉ちゃんが佳菜子の頭を撫でる。そして愛翔がカードで。

『ありがとう。』

「それは…話してくれて、ってこと?」

愛翔が、うーん、と言っているように、はにかんで首をかしげる。

「じゃあ、ここに来てくれて、ってことかな?」

にこっ、と愛翔が笑ってうなずいた。

「そっか。私もみんなに会えて嬉しいよ。ありがとう。」

お姉ちゃんは愛翔の頭も撫でる。最後に隆太郎が、鉛筆で。

『弟は、お姉ちゃんのこと、分かってると思う』

お姉ちゃんは泣けてきた。

「ああ、みんなどうしてこんなに優しいんだろう。そうだよね。私も元気出さないとね。」

隆太郎も、自分から頭を差し出して、お姉ちゃんに撫でてもらった。嬉しそうに笑っている。

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