寝入り時計

そうざ

The Clock to Sleep

 販売員が快活に喋り始める。

「今回ご紹介する商品はこちらっ。一見、何の変哲もない小さな置時計ですが、これが中々の優れ物なんです。皆さんは毎朝、目覚まし時計を使っていらっしゃいますよね。では、毎晩お休みになる時に時計を使っていらっしゃいますか? おかしいと思いませんか? 起きる時は強制的なのに、寝る時は自然に任せるなんて。例えば、明日は早朝から出張なので充分に睡眠を取っておきたいとか、翌日の遠足に備えてお子さんをしっかり寝かし付けたいとか、そういう事がありますよね? そんな時に限って中々寝付けないものです。そこでっ、この〔寝入り時計〕が大いに役立つんですっ。早速、実演してご覧に入れましょう!」

 販売員は素早く傍らのベッドに横たわり、セットした〔寝入り時計〕を枕元に置いた。程なく時計の上部の蓋がぱかっと開き、こんな小さな時計の何処に収納されていたのかという巨大な金槌が出現し、販売員の頭頂部をがちこーんっと殴打した。

 そこで目が覚めた。

 枕元の〔寝入り時計〕から伸びた何本ものコードが僕の頭に繋がっている。

 僕は、夢現ゆめうつつの頭でぼんやりと思った。まだテスト段階だから他愛のない夢を見てしまったが、改良を重ねれば自由自在に寝入る事が可能になり、必ずヒット商品になる。

 やっぱり、プレゼンの前に、自分……で試して……みるのは……正……解……だ……な………。

 くして、僕は二度寝をしてしまった。結果、社長への大事なプレゼンに遅刻してしまい、大目玉を食らった。〔寝入り時計〕の改良点として、通常の目覚まし機能も標準装備すべきだと思った。

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寝入り時計 そうざ @so-za

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