(付録)この世界の科学に関するいくらかの文献

(前書き

 あの世界の文献のいくらかを載せます。物語には関係ないので、読むことは必須ではありません。

 予習したい方には、ふたつほど注意点があります。

 ひとつは、補足。この先の説明は、当然のように向こうの世界の常識が出てくるので、補足説明を少し、()書きで入れます。この表記で(こちらの世界)とあれば、それはこの文を読んでいるあなたの世界です。

 そしてもうひとつは表記です。様々な専門用語が記述されますが、異なる言語である以上は発音が違い、当て字にしようにも、分かりにくい専門用語がさらに分かりにくくなってしまうため、より簡潔な表記としてこちらの世界の言葉を無理やり採用しています。例えば『Pp』はプロトプラズムに対する一般的な略称として、『プロト』は学術的な省略として使っています。

 あと、随時更新していきます。

 前書き以上)


Pp とは

Pp:プロトプラズムとは、必須栄養である。我々の身体に流れて様々な器官を動かす他、誰もが使っているガジェットを駆動させたり、貨幣として使われたりする。 本書では、今では当然として使われているPpや、ガジェットへの活用を解説する。

(大人の復習ノート Pp編 より抜粋)


1 Ppとはなにか その特徴

 おおかたは読者の知る通りだが、改めて復習していこう。Ppは我々の身体に流れ、主に栄養を運搬する役割がある(我々の世界だと、血がもっとも近い。ただし血液型はないので、自由に輸血できる)。これ自体が必須栄養であるものの、普通は体内で生成されるので接種する必要がない。日光浴で回復(光合成のようなもの)したり、土の場所を歩いていたら自然に回復する。前者はみな知っていることだが、後者に納得いかなかった読者は多いのではなかろうか。あれは地面からPpを吸いとっている訳ではなく、地中のバクテリアが、我々と同じように日光浴で作り出したPpを呼吸で貰っているのだ。といっても最近は開発が著しく、土の道などはまず見られないので、後者の回復方法は一般的でなくなってきている。と、こう述べたが、もっとも一般的な回復方法は経口摂取:ボトルから直飲みだろう。金銭のやり取りの激しい今、咄嗟にボトルからではなく首から支払いを済ませ、少し具合が悪くなるようならちょびりと飲む。そうした行動はごく一般的に取られている(この世界ではPpが実質的な貨幣になっているため、ボトルという容器に入れたものか、身体から直接かで支払う)。歴史的には――文明が発達する前の話ではあるが――相手の首に噛みつき、直接飲むという方法があったとされている。当然、現代でやれば犯罪であるので、いないとは思うがやってみようとは思わないように。

 さてそんなPpだが、その特徴を紹介していこう。


1-1 流体のようなPp

 まずひとつは、流体っぽく振る舞うこと。さて、ここで引っ掛かった者は多いだろう。そう、あくまでも流体ではなく、『流体っぽい』なのだ。その証拠に、いくつかの例を出そう。例えばソースが溢れたとき、服に命中したものは摩擦でベットリとくっつき、その表面張力で服に染み込み、拭うのに苦労するだろう。その一方でPpはさらりとしており、溢しても服を染み込むというよりすり抜けて肌に直撃し、そのままさらりと抜けていってしまう。また別の例を出すと、Ppをこぼしたときに発散して消えてしまうことがある。しかも普通は元には戻らない。それは何故か。ここで思い出して欲しいのが、周囲の空気が一気に熱くなること。そう、Ppは気体にならず熱になるのだ(発散:Ppを身体やボトルの外に放置すると、一気に熱に変換されて消えてしまうこと。より一般には蒸発とも言う。本来の意味とは違うが、語弊が定着した)。以上のことから、Ppは液体とも気体ともつかないのに、流体のように振る舞う物質なのである。とはいえ非常に近いため、工学的に利用するにあたっては流体としてもよいことになっている。有名なところではパイプライン(Ppのパイプライン輸送の設備を指す。『パイプライン』だけでいいのは、こちらの世界で『電線』と言えば架線を思い浮かべるのと同じようなもの)で、これはPpを普通の液体として扱う。しかし、精密機器レベルのミクロになってくるとただの液体では通らなくなるのだ。ここでは解説しないが、もし学びたくなったらプロト工学分野のプロト流体学の扉を叩くとよい。


1-2 輝くPp

 特徴と言えば誰もが思い浮かべるものがある。そう、発光だ。Ppを溢したりしたとき、白っぽい紫色に光っているのを見たことがあるだろう。そこで、そう習った幼い頃に、『なんで私の身体は光ってないんだろう』や、『手術のときに見えなさそう』などと思わなかっただろうか。実は、Ppがあれだけ輝いているのは発散の直前だからで、体内ではあそこまで強く光っていないのだ。Ppは発散するとき、熱になる前に光となってエネルギーを放出しようとする。公共の場でこぼしてしまい、自分が照らされてしまうほどに輝いて恥をかいてしまうのはこのためだ。実は体内でも光ってはいるのだが、それよりはずっと弱く、しかも肌で再吸収されるために普通にしていたら出ない。一方でPpが多く集まれば、再吸収を超過して身体が僅かに光る。そのため、顔が染まるのだ。(こちらの世界の人間は、恥ずかしいときなどに顔を赤に濃くして染める。それは赤鬼族でも同じなのだが、彼らはピンク色に薄めて僅かに光る。これは頭部に白っぽい光のPpが集まることで、赤い肌色を薄めるためだ。そのため、暗闇では恥ずかしがっているのがかなり分かりやすい)

手術においても光って見えないということはなく、多くの場合はPp蒸発防止器(メインテイナ)で光を抑えつつ、偏光フィルターの眼鏡やカメラでその中身を見るのだ。我々が健康診断で寄生虫検査のために提出したPpも、そのようにして直接寄生虫がいないかを確認する。


1-3 癒せるPp

 次に紹介するのは、大きな怪我を負ったことのある人であれば思いついたかもしれない特徴で、怪我を治すというものだ。治る時間は怪我の種類によってそれぞれだが、切創:切り傷や刺創:刺し傷ならば一瞬で治癒し、一方で挫滅創:打撲や擦過傷:擦り傷などは時間がかかる。少し難しい話になるが、これは怪我の連続性が重要になる。切り傷や刺し傷は肉が破壊され、切り分けられることがほとんどだ。それを傷の端から接着剤でくっつけるように治癒していくわけだが、怪我が連続していることで端の次がまた端になりと連鎖していき、一気に治すことができる。その一方で打撲や擦り傷は怪我が広範囲になりやすく、また傷と傷が離れ離れに分布することが多い。そのため治るか否かは確率によって決まり、初めは順調に治った打撲の、あと少しがなかなか治らなかったりしてしまうのだ。以上の話を聞いて、ひとつ疑問が浮かんだかもしれない。それは、『では肉をえぐり取ってしまったらどうなるか』だ。傷を閉じていくのに肉が足りない状態。そんなことになってしまった場合、実は傷は塞がりきらなくなるので、Ppがこぼれ続け、処置なしには死んでしまう。そうした怪我が発生する可能性が高いのは自動車事故であり、その対策もされている。道路の脇、緊急の処置キットがあるのを見たことはあるだろうか。実はあれはそうした怪我に備えてPpの流れを阻害するカプセル状の装置などが入った箱なのである。ただ、素人目に塞がる傷か否かを判断するのは難しいため、大きな傷に片っ端からカプセルをねじ込んでいこう。そんな無茶苦茶なと思われたかもしれないが、実はこれは緊急セット付属のマニュアルにも書いてある推奨の方法なのだ。


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ガジェット とは

ガジェットとは、一般的にはPURPLE・GADGET社の提供する、同名ブランドの機械である。あまりにも多いためPG社の製品しか存在しないような気がしてしまうが、実はクルマ産業には一切手を出していない。本書では、身近なガジェットの働きを、簡潔な理論と共に掘り下げていく。

(大人の復習ノート PG製ガジェット編 より抜粋)


1 理論の復習

 ガジェットと一口に言っても、印刷機、ハイウェイのオービスからイヤホンまで、幅広い種類が存在する。それを実現するのはハードウェアとソフトウェアの組み合わせなのだが、ハードウェアの働きを実現するアクチュエータを動かす物理現象の数はわずか数個しかない。重要なのは順番や組み合わせなのだ。この章では具体的な紹介に入る前に、ガジェットを駆動させるのに利用されている特性を、有名な利用方法の簡単な紹介と共にいくつか紹介する。


1-1 励起凝固

 簡単に言えば、Ppが硬く固まるあの現象である。Ppの工学利用と聞いて、真っ先に思い浮かべるとすればこれだろう。凝固したものは疑似物質ソリッドと呼ばれ、Ppを固める装置である焼成器で様々な形に凝固させ、一時的に固体として扱うというものだ。単純に構造物として使ったり、モーターやシールドに使われたりと様々な用途があるのだが、面白い活用であれば深い穴での作業に使うアンカーブレードという装置がある。これはアンカーを生成し、穴の壁などに打ち込むことで、一時的に命綱として機能するものだ。装置を一度切ってしまえばアンカーも消えるため、杭をいちいち抜きにいかず、穴の中を自在に移動できるのだという。また建造物での利用で有名なのは、やはり非常階段であろう。景観を気にする洒落たビルなどで壁にスリットのような穴があるのを見たことがあるだろうか。非常時にはあそこから凝固されたPpが飛び出し、階段になるのだ。非常用としては怖いが、ビルがまるごと倒壊でもしない限り駆動するそうだ。ちなみにこの利用方法は一説によると、Ppが通る脈管に凝固してしまった疑似物質が塞栓してしまう病気から、逆にPpを固めて使えないかと発想を転換させて生まれたという。


1-2 パイル現象

 前述した励起凝固が起こる際、長い棒でイメージしていただきたいのだが、まず先端が作られ、固まった先端がそれよりも手前に押し出され、押し出したところが固まったらまた手前に押し出されを連続的に繰り返し、外部からの力をかけずとも勝手に反対側の先端まで形作られていく。このときの押し出す力が物凄く強く、棒は大砲で打ち出したが如く、とてつもない勢いで飛び出して行ってしまう。壁を用意しても、場合によっては貫いてしまうだろう。この飛び出しの現象をパイル現象という。その名の通り、実験で生み出された針状突起が飛び出す様が、まるで杭打機のようであるから名付けられた。また後の反発化現象と並ぶモーターを駆動する二大現象の一つであり、このパイル式モータは強力なトルクを必須とする用途:パイプラインのポンプなどで活用されている。ただし融通が利かないほど強力であるため、負荷が大きく変わる場面で軸が破損するというリスクもある。その他にも、例えば銃、特に徹甲弾のような重いものを射出する必要がある機械や、その名の通り杭打ちなどに活用されている。またゆっくりと凝固させることで押し出す速度もゆっくりになるため、それを利用して重い自動扉の制御にも使われる。ここまで聞くと反動が物凄いような気がするだろうが、実はほとんど反作用は起こらない。というのも疑似物質はかなり軽いのだ。すると今度は銃の威力が不安になるだろうが、弾はある方法で重くしてある。詳細は後述の慣性化現象で解説する。


1-3 反発化現象

 反発化は、接触なしで力を生じさせる現象である。例えば疑似物質をふたつ並べたとき、この反発化現象を使うと強烈な斥力が生まれ、お互いに押し出して吹っ飛んでいってしまう(磁石のようなもの。ただしSやNの極はない)。無励起Ppでもできるのだが、前述したように流体っぽく振る舞うので弾けてまき散らしてしまう。それだけでなく、散ったPpが一気に発散して熱となり、場合によっては爆発となって大変危険である。ただし、例えばマシンガンのように素早く連続で射出するにはパイル現象だと間に合わないので、僅かに凝固させた半液状を反発化で押し出し、途中の銃身で固めていくという方式をとったりしている。また前述のパイル現象と並んでモーターを駆動する二大現象の一つであり、この反発式モータは回転数に関して融通が利くためトルク制御がしやすく事故に強い。自動ドアでも、人を挟む事故を回避したいショッピングモールなどで使われている。と、反発化現象はパイル現象に比べて何かと事故に強いことを述べたが、逆にこれが原因で事故が起こった事例を紹介しよう。一昔前にはクルマの前後に搭載し、事故の衝撃を和らげようという試みがあり、瞬く間に大流行したのだが、止まっているビークルに対してホバーが後ろから突っ込んだ。どうなったかと言えば、その強力な斥力によってホバーの先端が横へずれて車体ごと逸らされ、歩行者へと突っ込んでしまった。この痛ましい事件では死者も出ており、凄まじいバッシングを最後に一気に廃れてしまった。事故に強いというイメージを妄信してはならない。


1-4 発光増幅

 恩恵で言えば先述のどの現象も同じだけ大きいが、日常的にもっとも目にする機会が多いのがこの発光増幅だ。Ppが持つ輝きをさらに増幅させ、ライトとして活用する。現代では誰しもが目にする広告で使われていて、そのもっとも簡単な見本はネオンサインだ(この世界にネオンはないが、便宜上そう記述する)。ガラス管にPpを満たし、発光させる。それだけなのでガラス管さえ用意できれば、専門家でなくてもすぐに用意できてしまう。ちなみにそのときの色はPpの色であり、この色の看板は医療系のイメージがあるかもしれない。実はネオンサインが登場した時には揃って同じ色だったのだが、他の色ができるようになってからはこぞって個性ある色にしようと鞍替えをした。そのとき、医療系だけはあえてPp色を貫いたため、自然とあの紫色=医療というイメージが定着した。いま現在の広告でPp色を使うものがほぼないのはこのためだ。その一方でPG社も紫色のネオンを用いているが、決まってあのロゴも伴っているために、医療機関と間違われることは少ない。ちなみに、先述の反発化と合わせて、浮遊する光球というおしゃれなライトとしての活用もある。実はこの球、反発化現象で生まれる場にピン留めされており、そう易々とは落ちない。もしも持っている読者がいれば、ちょっとだけ傾けてみよう。斜めになっても落ちない不思議な光景が見られるはずだ。


1-5 慣性化現象

 固体Ppを活用するため、様々な現象が用いられる。慣性化現象はそのもっとも広く用いられている現象である。実は、励起凝固しただけの疑似物質にはほとんど質量:重さがない。すると、例えば射出して崖などに何かを撃ち込むときに軽すぎて刺さらず、質量という動きにくさによって保障される『ゆったりとした加速』を実現する慣性力が低いために、力による加速度が急激になりすぎて思わぬ事故が起こったりする。それを阻止するためにこの現象が使われる。体積に対する密度は、底を1以上とした対数関数的な増加を示す。ある程度で頭打ちとなるが、実はその漸近線は慣性化に使用する機械の性能によって多少は上下する。当然、重くするほど必要なPpは増えていくため、なんでもかなり重くすればよいというわけではない。ちなみにこの現象は、登場当時はかなり騒がれた。というのも、重さをコントロールできるのだからエネルギー変換効率が1を超える永久機関として利用できるのではないか、と期待されたのだ。しかしそうして生み出された位置エネルギーは情報のために消費されるPp量の総エネルギー量を下回り、また効率も悪い。Ppを直に熱にしてしまった方が効率の良い機関が作れるのだ。


1-6 軟化現象

 疑似物質としてのPpはよく不気味な硬さと形容されることがあり、慣性化をしても固有振動数が非常に高い。その硬さの割には靭性が低い:脆性が高いため、過信して疑似物質の厚みを低くするとあっという間に破壊されてしまう。Pp供給がある限りは即時的に回復するが、一瞬でも壊れてはならないのであればこの軟化現象が必須となる。これは文字通り、硬い疑似物質が固体のまま、柔らかくなる現象である。先述のアンカーブレードは遠くへ杭を打つガジェットだが、この時ブレードと手元とを繋ぐロープが軟化された疑似物質となる。他にも、衝撃を吸収する必要のあるフレームや、特殊部隊などで採用されているシールドなどでも使われている。特にシールドでは軟化によって固有振動数を減少させ、シールド全体がブルブルと震えるように厳密な調整がなされている。これにより、被弾した際のエネルギーを音圧という形で空気中に逃がしているのだ。


1-7 空洞現象

 今度は工業利用される現象ではない。これは別名、キャビテーションとも呼ばれる現象であり、エンジニアが耳をふさぎたくなる単語だ。というのも、例えばボトルやタンクとガジェットの間では当然、Ppの供給があるわけだが、ここで発散が起きて絶え間なく供給されるPpに空洞が発生すると、ガジェットの動作に不具合が発生して、事故が起こる…という危険があるのだ。しかもこれはガジェット側の需要量だけが原因ではなく、供給側の不安定、果ては多くの世帯が一気にPpを使うことで供給が不足することでも起こる。その防止のため各家庭にサージタンクが置かれることが多いのだが、パイプラインから直に供給している家庭では常に空洞現象の危険と隣り合わせになっているのだ。


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2 そもそもガジェットとは

 日常的に利用している色々な道具。その中でもPpを消費して動くもの全てがガジェットに当たる。つまり、身の回りの道具と呼べるものの半分以上がガジェットなのだ。歴史的には、まずPG社の前身に当たる『ヤギョウメカトロニクス』がPpを利用する機械を発明し、それをPURPLE・GADGETとして商標登録、特許取得、そして社名の変更をした。その後、他かの会社からも同じくPpを利用する機械が様々に発明されたが、PG社のスタートダッシュがとにかく早く、他の会社の追随を許さなかった。すると多くの会社は方針を転換し、ガジェット産業から撤退するか、ニッチな顧客層を狙った開発に尽力することになった。我々の身の回りのガジェットがほぼPG社製であることは、ここに由来する。このとき、安価ながら安定した性能を持つガジェットの数々は多くの機械の代替となり、機械産業のほとんどを支配することになった。その結果、多くの人間が路頭に迷うことになり、近代史の『蒸気恐慌時代』を引き起こすこととなった。このように機械産業を徹底的に破壊したように見えるPG社だが、産業の要となるクルマ産業には手を出していない。実はPG社設立後、同社に対抗するべく結成された『ガジェット連合会』が真っ先に手を出し、クルマに関するノウハウがないPG社を出し抜いたのだ。現在はあらゆるノウハウを蓄積している同社だが、恐慌を引き起こした歴史もあり、クルマ産業には参入しない意向を公表している。さて歴史の解説が長くなったが、ここから先はガジェットの色々な種類や分類について、大まかに紹介していこう。


2-1 Pp転送の手法

 ふつうPpは、体内を循環している。それを身体の外で移動させる手段がいくつかあり、どれもガジェットを学ぶ上では避けて通れない。基本として、次からは転送の種類について紹介していく。


2-1-1 有線転送

 ケーブルによる転送である。ケーブルは大きく分けて二種類、慣性ケーブルと非慣性ケーブルである。非慣性ケーブルはPpの発散を防ぐ処理を施した一般的なチューブである。一方で慣性ケーブルは、同様に発散を防ぐ処理を施してあるが、Ppを流し込むことでケーブルの周りに逆らうような場が生じ、その後Ppの転送方向へと場の方向が安定することで、ケーブルそのものがPpを送り込むポンプのように押し出し続けるのだ。初期状態から安定状態への過渡に必要なエネルギーは大きいが、転送損失が少なく、転送し続けるのであれば慣性ケーブルがよい。余談だが、面白い論文という話題になったとき、真っ先に挙げられるものの一つにティアラズ・ニコ博士による『慣性ケーブルのサージ周期の深度とパスタの茹で具合』がある。内容は慣性ケーブルを使い始めた瞬間に起こる場の振動とパスタを茹でるときの芯の残り具合を同じモデルで表すという理論についてらしいが、あくまでも面白いとは名前のことであり、内容に関しては難解を極めるため、むやみに読まない方がよいだろう。


2-1-2 無線転送

 ケーブルを使わない転送であり、これにも複数の種類がある。一般に広く用いられるのは吸引素子サクショナーによるトンネルと、タッチレスチャージャーによる疑似ケーブルである。吸引素子は何もない場所に、文字通りトンネルのような、疑似的な通り道を作り出すことでPpを転送する。転送損失が少ないものの、この現象には純度の高い素子が必要で、また長距離転送に向かない。中距離の転送でさえ大量の素子を要とするのだ。一方でタッチレスチャージャーはPpを送り出す側と受け取る側のペアが必要で、疑似的なケーブルの始めと終わりである。理想的な話をすると世界の果てと果てでもそのペアは繋がっているが、現実には一定の距離でピッタリと転送できなくなってしまう。これを専門用語で『しきい値断線』といい、市販のタッチレスチャージャーでまず確認する長さの単位を決める指標となっている。



2-2 体の外・体の中

 さてここからガジェットの、まず思い浮かべる二つの分類を挙げよう。それは、体外エクスターナル寄生ボディガジェットとのガジェットだ。前者はいわゆる普通の道具と言って思い浮かべる、自分の身体の外のガジェットである一方で、後者はまるで寄生虫のように体内に埋め込まれるタイプのガジェットである。世の中にはその両方で使えるものもあるというが、多くはこの二種類に分けられる。


2-2-1 エクスガジェット

 普通のガジェットといえばこちら、という方である。古い人間からすると慣れない名称だが、読者の方はその理由が分かるだろうか。実はこのエクスガジェットという名はレトロニムであり、ボディ

Pp回路による小型化か進んだ結果、蒸気機関では達成できなかった携帯式の動力付き道具が生み出され、世界の文化レベルを一気に引き上げたと言っても過言ではない――――

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