二時間

Two Hours

「この女優、名前なんだったっけ？」

「何だったかしら。昔は人気あったわよねぇ」

「すっかり老けちゃったなぁ。なまじ綺麗だと年を取ってから悲惨だよな」

「でも、年齢の割には若いわよ。やっぱり芸能人よね～」

「これ、ロケ地は何処だ？　今、後ろに城が映ったな」

「あ、私この男、大っ嫌い。なんかイヤらしい顔してるでしょう」

「取り引き先に似てる人が居るんだ。きっと周りから言われてるな、似てるって」

「あららら、もう殺されちゃったわ」

「さっきのは多分、熊本城だな。黒かったから」

「そうそう、田舎から蜜柑を送って貰ったんだったわ。食べる？」

「お茶もな。あぁあっ、撃たれた」

「あら、どうしてこの刑事が居るの？」

「だからほら、あの何とかっていう女優が通報してさ」

「どうせ、あの女が殺ったんじゃないのぉ？」

「犯人役やるようじゃ落ち目だな」

「色々やんなきゃ仕事が減っちゃうんじゃないのぉ？　あっちこっちのドラマでよく犯人やってるもん」

「あー、もうまた宣伝だ。後半になると途端にＣＭが増えるんだよな」

「マ、マ……苗字にマが付くんじゃなかったっけ？　あの女優」

「よっこいしょ。便所タイム。お茶飲み過ぎた」

「あらま、さっき死んだ男が出て来た。保険会社の宣伝なんて似合わないわ～」

「お～、寒っ。ドラマん中は夏だから、調子狂っちゃうよ。マユミじゃなかったか？　ナントカ・マユミ」

「苗字にマが付くんだってば。あ……マユミ・ナントカ子だった気がする」

「やっぱりこの女が犯人か。捻（ひね）りがねぇなぁ」

「ここ、良い景色ねぇ。何処かしら」

「だから熊本だって。ほらほら、協力・熊本市観光協会って出た」

「蜜柑、まだ酸っぱかったわね」

「あ、出演者の名前、流れたろ？　女優の名前、何だった？」

「え～、そんなの見てなかったわよ。別に良いでしょ、そんな事」

「――で、従妹のチエちゃんは何処に出てたんだ？」

「さぁ……都内で撮影してたところに出くわしたらしいから、最初の方じゃない？　でも、ちょっと映り込んだかも～みたいな話し振りだったし」

「ふぅ、二時間も観て損したな」