第22話 家畜経営


 「伯爵様、シェラルトという名の兵士の居場所を教えてください」


 「シェラルト・・・身に覚えはないです。ロリポップさんは知っていますか?」


 「はい。監禁部屋の番人をしている兵士です。ハーロルトやクローヴィスが重宝していたはずです」


 「そこに案内してもらえないでしょうか」


 「わかりました。私が案内を致しましょう」



 私は地下牢でアーダルベルト伯爵とお互いに協力をする約束を交わした。アーダルベルト伯爵は私の事は一切詮索をせず全面的に協力をし、私は伯爵家の新執事として働きながらアーダルベルト伯爵の感情を取り戻す手伝いをすることになった。ロリポップは死んだと思っていた私が生きていることに驚いていたが、アーダルベルト伯爵から余計な詮索はしないようにと言われたので、何事もなかったかのように私に接している。



 私はロリポップに連れられて3階にある大広間に案内された。



 「この大広間に隠し通路があります」



 大広間には特に何もなくパーティーなど催すことができる多目的ルームのようであった。大広間の突き当りには暖炉があり、暖炉の中を通ると監禁部屋に通じる通路が隠されている。


 私はロリポップの後を付いて行き、暖炉を抜けて隠し通路を通って監禁部屋の前まで来た。


 

 「扉をあけます」



 ロリポップが少し小さめの扉をゆっくりと開けた。


 扉をあけるとそこには10畳ほどの大きさの部屋があり、部屋の中央には両足を切断されたオークが吊るされていて、床には男性のだと思わる死体が転がっていた。



 「アルカナちゃん。シェラルトは殺されたようです」



 床に転がっている死体はシェラルトであった。



「遅かったようですね」



 私は冷静を装って淡々と述べたが、手掛かりであったシェラルトが殺されていて、怒りを抑えるのに必死であった。



 「口封じでしょうか」


 「おそらくそうでしょう。クローヴィス兵士長が地下牢に監禁されたことを知り、何か秘密が漏れる事を恐れて殺したのでしょう」



 私は怒りと同時に焦りも生じていた。シェラルトが殺されたってことは、私がソルシエールを殺した犯人を捜している事が察知された可能性がある。



 「内部の兵士の犯行でしょうか?」


 「おそらくそうでしょう」


 「すぐに兵士達を集めましょうか?」


 「いえ、シェラルトは殺されてから一時間以上は経過しています。すでに犯人は逃げているでしょう」


 「それなら、いなくなった兵士を確認します」


 「それも無駄だと思います。これほど用意周到に犯行をする人物なら身分証の情報は信用できません」


 「わかりました。では、これからどうしましょうか?」


 「私の情報では、伯爵様は『不滅の欲望』の強欲支部の幹部だと聞いています」


 「たしかに名目上ではそうなっていますが、伯爵様は1度も『不滅の欲望』の会合に参加したことはなく、詳しい実情は誰も知りません。でも、シェラルトが愛玩していた平民たちなら何かしっているかもしれません」


 「平民の居場所に案内してもらっても良いでしょうか」


 「わかりました」



 私はアーダルベルト伯爵邸の別館にある平民が住んでいる施設に案内された。


 アーダルベルト伯爵邸の別館には飼育部屋と呼ばれる大きな部屋が5つある。1つ目は10人ほどの男性家畜がいる部屋、2つ目は30人ほどの女性家畜が居る部屋。3つ目は誰もいない部屋だが、月に2度男女の家畜を一緒に開放する部屋である。4つ目は家畜を管理する平民の男性の部屋。5つ目は家畜の管理をする平民の女性の部屋。


 家畜は国の所有物なので飼うことは禁止されているが、クローヴィス兵士長が闇市で定期的に購入して集めたものである。


 クローヴィス兵士長が家畜経営をしていたのは、生まれてくる女の子を高値で売りさばくためである。男の子は労働力として売れるが売値は低くもうけは少ない。女の子は家畜を殖やす金の卵なので、引手あまたなのである。



 別館に着くと獣臭が私の鼻を強烈に襲う。ロリポップは布で鼻を抑えて匂いを軽減させるが、私は異臭には慣れているので全く問題はない。



 「1階は家畜部屋になっていますので、2階へ上がりましょう」



 1階は大きな空間になっているが、鉄格子で3つのエリア【部屋】に区分けされていた。それぞれのエリアに裸の男女が住んでいて、両手両足を拘束されていて芋虫のように床を這いつくばっていた。床には泥団子のようなエサや糞尿が溢れていてかなり衛生上問題があると感じていた。


 私たちが家畜の側を通過すると、家畜は鉄格子の側まで接近して、嗚咽のような声を発して私達を歓迎しているようであった。私は家畜たちに目をやることなく二階へ通じる階段を登って行った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る