第7話 子供たちと①
教会を出ると、妻は子供たちとじゃれあっていました。
火の魔法を使い、子供たちの興味を引いたからです。子供たちの望む動物の絵を火の魔法を使って描いていました。しかし、そんなことを妻がするなんて思ってもいませんでした。
村に住んでいた頃、ずっと、私たちは孤独でした。村人たちと仲良くすることなんてなかったのです。大きな壁にでも隔たれてしまったように、小さな小屋のような住居の中で2人で過ごしていたのです。外から聞こえる子供たちの笑い声ですら、顔を上げることすらなく、見たこともない世界のことを空想していたのです。それなのに、いま妻は子供たちと遊んでいました。それには違和感を憶えていたのかもしれません。
ライオンを作って、コアラを作って、と子供たちがせがんでいました。子供たちにもみくちゃにされて、困った顔をしながら妻が私に訊ねてきました。
「ねえ、教会はどうだったの?」
「何もなかったよ……」
たわいもない返事をしました。
その間、妻は子供たちの相手をしていました。
きゃっきゃと笑い声が聞こえてきます。
「じゃあ、あそこに勇者はいなかったの?」
「いなかった……まあ、6人の異世界人はいたけどね……」
妻は立ち上がると、私の方に歩いてきました。
子供たちは掴んでいた手を振りほどかれて不満そうな顔をしていました。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか……」
「そうだね……」
出発しようとすると、突然、妻はたくさんの子供たちに囲まれてしまいました。どうやら子供たちは妻のことを離してはくれないようです。
妻が子供の対応をしている間、私は街の様子でも見に行こうかと思っていました。しかし、妻は待っててほしいと言うので、しばらく、私は教会の前で子供たちの姿を眺めていることにしました。
待っていると、1人の少女が私に声をかけてきました。
少女は青い石の
「お兄ちゃん、これ受け取って!!!」
気が付くと、私の手には青い石の
少女は私の右手を掴んでいます。
「これは?」
と、私は訊ねました。
「奇麗でしょ!! お兄ちゃんにあげる!!!」
そう言うと、少女は教会の方に戻っていきました。
真っ白な教会の方に視線を向けると、少女は他の子供たちと遊んでいました。
近くでは妻が子供たちと遊んでいました。
夕方になって、やっと子供たちから解放されることになりました。
坂道を下りてくと、教会は見えなくなりました。ただ、高台の上には子供たちの顔だけが見えていました。妻は子供たちに手を振っています。
城下町に着くと私たちは宿屋を探していました。
その間、教会にいた異世界人のことを考えていました。
異世界人は眠っていました。
物語の話は本当の話だったのです。既に彼らは祈りの対象になっており、世界を救った英雄になっていました。そして、彼らのことを人間であると思う人はいなくなっていました。そのことに気が付くと、偽の勇者である私は不安な気持ちになってしまいました。
子供の対応で疲れてしまったのでしょう。
宿屋に着くと、妻はベッドで寝てしまいました。
それから数日が過ぎていきました。
毎日、王様との謁見をしようとしていましたが、いまだに謁見することができなかったせいでした。
妻は教会に行き、子供たちと遊んでいるようでした。
夜になり、宿屋に戻ってきていました。
暗くなると、城下町の通路は自宅に帰るたくさんの人で溢れ返っています。家の戸締りの音が聞こえ、部屋の明かりが付きはじめていました。人の姿がまばらになった頃、宿屋のドアを叩く音が聞こえてきました。
暗くなると、城下町の通路は自宅に帰るたくさんの人で溢れ返っています。家の戸締りの音が聞こえ、部屋の明かりが付きはじめていました。人の姿がまばらになった頃、宿屋のドアを叩く音が聞こえてきました。
ドアを叩く音がします。
びっくりしたように私は立ち上がりました。
妻が眠っているため、起こさないようにドアを開けてみることにしました。
「お食事の準備ができております……」
宿屋の女性の声がしました。
それを聞いて、眠っている妻を起こそうとしましたが、まったく起きるようすがありません。階段を下りると、宿屋の主人が食事の準備をしている姿が見えていました。
妻の為、部屋に料理を持っていこうと思っていました。
私は食堂の椅子に座っていました。
数日が過ぎても王様と謁見ができないこともあり、まったく食事をする気力がなくなっていました。豆が入っているスープだけをもらって、それをすすることしかできなくなっていました。
食堂には見知らぬ人たちが集まっています。
前の席には1人の男性が座っていました。貴族のような格好をしています。
右隣の席には5人の町人が集まっていました。田畑の向こうにあるグレース平原にて魔族の見たという話をしていました。対応策について検討をしているようです。
「勇者様、魔族を倒してください~」
町人の1人が祈りを捧げるような恰好をしていました。
他の町人たちはゲラゲラと笑っていました。
冗談のつもりなのです。ただ、私は不安になりました。
きっと、勇者のことを神の使いであると信じているのかもしれません。とっさに、私は右手にある紋章を隠すことにしました。偽物であるにしても、勇者であるとはバレたくなかったのです。
白いハンカチを使い、私は右手の紋章を覆い隠しました。
その時、意識が
気が付くと、私は椅子から崩れるように倒れていました。
私は起き上がることができません。
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