第23話 天啓の思索
「……全くもって
ゼブラル・ヴァント・ルクスメイルは、私室に入るや否や愚痴をこぼした。
アムネ・セネスライトに取り憑いた竜王が出出し、人族の小国へ攻撃を行ったことで、人族国際連盟の緊急会合に幾つも出席する羽目になった。
人工勇者計画の責任者として研究に深く関われたことまでは良かった。
たが、多数の会議に顔を出さなければならなくなり、研究に没頭できなくなってしまったのでは本末転倒だ。
ゼブラルは魔法関連の探究以外には全くと言っていいほど興味がない。
心底やりたくない面倒ごとを渋々やるのは、人族全体の悲願のためだ。
老い先短いゼブラルは、どうしても自らの目で悲願の
——それ故、不安要素は即刻取り除かねばならない。
「しかし……
人族全十三ヶ国で行われた会合で主題となったのは、竜王の今後の予想進路だった。
しかし、その最中にゼブラルはある奇妙な点に気がついた。
それは、現在までの竜王の進路が描かれた地図を見たときだった。
最初の侵略目標を、アムネの母親を殺した男が属するザイテン王国にしたのは理解できる。
だが、次に標的とした国が問題なのだ。
竜王はザイテン王国の首都を壊滅させた後、アルティナ共和国を襲撃した。
ザイテン王国から最短距離の人族国家はポリス神聖国だ。
加えて、ポリス神聖国の近辺に別の人族国家が存在するが、アルティナ共和国は周辺が森と川に囲まれており、次の標的とする国が近場にない。
極め付けは、アルティナ共和国の方が圧倒的に勇者が所属するメリモント魔法王国に近いのだ。竜王が最も警戒しているであろう勇者が所属する国に接近する利点など皆無。
——どちらも人族の小国であり、軍事力の差異も竜王にとってはないに等しいだろう。
竜王の目的が単純な人族への報復であり、人族を滅するために行動しているのならば何故このような選択をした?
侵略は速度が求められる。最短距離で人族の国を潰していくべきだ。
次に侵略する国が予想できたとて、メリモント魔法王国が勇者を他国に在中させるなどしないのは、百も承知のはず。
万が一裏をかかれ、勇者が不在の最中に人族総司令部があるメリモント魔法王国首都に攻め込まれる可能性を、人族の重鎮たちは無視できないのだ。
——叡智の結晶たる竜王が、このような単純で愚鈍たるミスを犯すとは思えない。
故に、何かそうする理由があると考えるのが道理。
ゼブラルは思索した。
アルティナ共和国とポリス神聖国の相違点とは何か。その中で、竜王に不利益を与える可能性があるものを絞り込む。
——そして、得られた解は、ただ一つ。
改めて振り返れば、単純なことだった。誰でも容易に気がつくことだ。
それは、人族国家の思想。
戦争により、他種族の侵略からの安寧を勝ち取ろうと考える“強硬派”。
対話により、平和的に他種族からの脅威を取り除こうという、子供が考えたかのような幸せな思考回路のもとに生み出された“穏健派”。
アルティナ共和国は強硬派であり、ポリス神聖国は数少ない穏健派だ。
もっと言えば、ポリス神聖国の周辺国は皆穏健派。三大強国の中で唯一の穏健派である要塞国家バレムの影響を受けた小国共だ。
即ち、ザイテン王国から人族国家を最短距離で滅ぼしていけば、穏健派の小国が次々に標的となってしまう。
何故、人族の情勢にそこまで詳しいのか聞かれれば、竜王の叡智ゆえだと言うほかない。
竜王の意図は何かと問われれば、不明だと言わざるを得ない。
一応、竜王のこの行動により、人族側に幾つかの不利益が生まれる。
一例としては、竜王が穏健派の国を攻撃しないという憶測が広まることで、半ば無理やり強硬派に加入させた小国が結託し、穏健派に寝返る可能性が大いにある。
そうなれば強硬派に対する反発が強まり、最悪内乱だ。
こうなれば、他種族との戦争どころではなくなるだろう。
しかし、こんな回りくどいことを生物の頂点たる竜王がやる意味はない。考えられる他の不利益も同様だ。
よって、これらは恐らく副次効果の一つに過ぎない。
竜王の真の目的を探る足掛かりが、一連の不可解な行動には隠されている筈だとゼブラルは考えた。
これらは一応、会合の中で共有はしたものの、情報が不足している今では妄想の域を出ない。
だが、それでもゼブラルは、竜王が単なる報復目的で動いているとはどうしても考えられなかった。
神の如き超常生物たる竜王が、復讐などに囚われるわけがないのだから。
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