第四章 邂逅
第31話 お姉ちゃん
「繋がったか……」
竜の秘宝の一つである【
光が漏れ出る場所には
限界まで離れた座標へ空間転移したので、人族領ではないはずだが、体を休めることができる場所かどうかは分からない。
「ふぅーーー」
深呼吸を一つ入れ、念の為いつでも戦闘に入れる状態にしながら、私はそこに飛び込んだ。
——視界が光で覆われ何も見えない中で、風が頬を撫でる感覚だけが伝わる。
右足の膝から下と、左足の足首が消し飛ばされたため、竜気で練った翼で足を地面につけずに宙を漂っているが不便極まりない。
白で埋め尽くされた視界に色が戻ってくると、私は気がついた。
目の前に見えたのは、鬱蒼と生える大小様々な巨木たち——ここは、森だ。
私は【
……どうやら、周りに魔力を持つ生物はいないらしい。
ゆっくりと息を吐く。
ひとまず安心だ。
私は翼を羽ばたかせ、
翼を霧散させ、勇者戦で負った傷の本格的な治癒に専念する。
精神の融合は限界に近い。
しかし、アムネでは欠損部位の治癒などできないだろう。
意識が分離する前に、勇者に蹴られたことで潰れた内臓と、消滅した足を修復しなければならない。
切断された左腕は移動に使わないため、竜気の残量が殆どない今は後回しだ。
目を瞑り、意識を集中させ、ゆっくりと竜気を再生部分に集中させていく。
まずは内臓。
凝縮した竜気で治癒魔法を編み——発動。
精密な竜気操作で傷ついた臓器を修復する。
「まずいな……意識が、剥がれる」
何とか勇者にやられた内臓は治せたが、アムネの体が本能的に危険を訴え、拒絶反応が強くなっている。
——つぎは足だ。
足の構造を鮮明に想像し、竜気を集中させ、緻密に構築された治癒魔法を行使する。
そうすれば、足の骨格が作られ、そこに筋肉や神経が付き、全体が皮膚で覆われていく。
ひとまず、これで安心だ。
私は抵抗していた精神の剥離を受け入れ、分離を促進させる。
そうすれば——
「うッ……身体中が痛い」
——私、わたしはそう呟きながら体重を預けていた木を離れて立ち上がった。
左腕がないせいで、体の重心が上手く取れない。
それに、何だか体に力が入らない。ふらふらする。
『大量出血で血が不足している。それに、魔法で無理やり痛覚を鈍化させることで誤魔化してはいるが、体がそもそも限界に近いのだ』
「……ごめんなさい。わたしのせいで、こんなことになってしまって」
『終わったことを嘆く意味はない。……我にも落ち度はあるしな』
違う、竜王様は悪くない……はずだ。
わたしが竜王様を信じきれなかったのが全ての原因だ。
人族を庇う獣族たちがあまりにも衝撃的で、「全てを知りたい」なんて、身の程知らずな言葉も思わず口に出してしまった。
『——ともかく、念のためここから離れ、血肉になるものを探すぞ』
「……はい、分かりました」
わたしは竜王様の言葉に頷いて、体の重心に気をつけながら森の中を歩いていく。
竜王様はこれ以上の対話を望んでなかった。
なら、それに従うしかない。
わたしは、竜王様からもらった知識を駆使して、考え続けなければならない。
◆
「何もないよぉ……」
体感では一時間経ってないくらい。その間、わたしは食べ物を探して歩き続けた。
それなのに何も見つからない。動物すらも探知できないし、果物なんかも見当たらない。
そのせいで、竜気を左腕の再生に割ける余裕がなくて、ずっと止血と痛覚鈍化の魔法で耐え凌いでる。
——正直、体も心もかなり辛い。
だけど、勇者と戦った時は殆ど竜王様の精神だったからか、全部他人事みたいで、何とか平常心を保ててる。
手足を切断されたことも、魔法で怪我を治癒したことも、夢を見たように実感が湧かなくて少し変な感じだ。
いや、今はそんなことどうでもいい。
お腹も減ったし、腕も生やしたいのだ。
なんとしてでも食べ物を——
「——へッ!?」
突然体に悪寒が走った。
気持ち悪い。
全てを丸裸にされたみたいな錯覚を覚える。
この変な感覚は、魔法で探知された時特有のとものだ。
それも、かなり精密な部類のやつ。逆探知できない。正確な位置が掴めない。
でも、魔法反応から探知された感覚が伝わるまで殆ど時間がかからなかった。
つまり、発動者が近くにいるってことだ。
「竜王様、どうします!? 節約してた竜気を使った方がいいですか!?」
『……探知が、途切れている? いや、これは、魔族の……そうか、ここで遭遇するか』
「えッ!? 魔族ッ!? 竜王様、それってどういう意味——あッ」
気配がする。
探知魔法を掻い潜られた。
近い。
全くわからなかった。
一刻を早く竜王様に精神を混ぜ——
「もしかして……アムネちゃん?」
「——えっ?」
聞こえたのは、暖かさを感じるような柔らかい声だった。
思わず気が抜けてしまいそうな、安心する声だった。
幼い頃の曖昧な記憶の中に、その
——茂みの奥から、姿が、見えた。
薄黄色の綺麗な瞳が、わたしを貫く。
「あっ……あ、なんで……こんなところに」
わたしは震える声で呟いた。
短い水色の髪。肩先につかないくらいの長さで、両方の耳が出てる。
側頭部には、羊みたいに捻れた茶色の巻きツノがついている。
全ての特徴が、記憶と完璧に一致する。
わたしの記憶と竜王様の記憶——その両方にある人物。
わたしと違って、竜王様は彼女の二つ名を知っていた。
「シェルミ、お姉ちゃん……」
四魔天、
記憶の奥底。
そこで、固い扉が開く、音がした。
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