第27話 竜王の謀略

 精神移植魔法を開発した竜王が導き出した結論は、『異なる精神は決して相容れない』ということだ。


 無意識に構築されたは、魔法により無理やりねじ込まれた異物を拒む。


 故に、竜王は混ざることしかできない——筈だった。


『異なる精神で不可能ならば、そうでないと素体に誤認させれば良い』


 竜王はこの考えのもと、画期的で合理的で悪魔的な、ある方法を確立していた。


 それは数多あまたの前提条件を必要とし、一歩間違えれば素体の精神が崩壊するような荒技。


 だが、竜王は出会った。まるで世界が竜王のために用意したとしか思えない完璧な素体に。




 ——その素体は幼く、精神が未熟であった。


 ——その素体の人格は崩壊寸前であった。


 ——その素体は竜王の力に耐えられる程の天稟てんぴんを持ち合わせていた。


 ——その素体は歪んだ悲願を宿していた。




 あとは、竜王が緻密に練った計画通りに進むよう、その素体——アムネ・セネスライトを誘導する。


 不都合な知識は与えず、不必要な感情は抑制し、精神に異常をきたすような記憶は弄った。


 ザイテン王国時には、本来自律的に攻撃するはずの魔竜に何もさせず、人族が馬車で逃げてることを伝えず、竜王の力に制限をかけることで魔法士戦で苦戦を強いさせた。


 ——どれも、戦闘の才がないとアムネに錯覚させ、劣等感を植え付けることで、強敵と相対した際に速やかに竜王と混ざるように刷り込むためだ。


 それらは全て成功。アムネにを明かさぬまま、順調に事が進んでいた。




 しかし、想定外の事態が発生した。


 それは、アムネの精神の急激な成熟。


 膨大な知識を与えたせいか、壮絶な過去を乗り越えるために成長したのか、それとも竜王の力による副作用か。他にも多数の予測は立てられる。


 ——が、重要なのはそこではない。


 アムネはもはや、無垢で哀れな魔族の少女ではない。


 竜王の誘導に対して疑問をもち、思索し、判断する。

 今はまだ竜王に対して崇拝的な感情があるため、持ち堪えているにすぎない。


 いつか、アムネが竜王を拒絶する日がくる可能性を否定できない。


 これは、最も大きな障害だ。


 所詮、竜王は異物。アムネが受け入れているからこそ、竜王は依代よりしろを得て行動できる。


 アムネの思念を受け取れるのも、アムネが心を開いているからだ。


 ——すなわち、竜王はアムネの反感を買うことができない。


 表面上ではアムネの目的に賛同し、真の目的に致命的な支障が出るもの以外は可能な限り実行することが求められる。


 その最中、竜王はアムネに悟られぬように真の目的を成就じょうじゅするための布石を打ち続けている。




 【世界には、確固たるが必要なのだ】








 

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