第21話 焦滅

 魔竜が標的の都市に向けて急降下する。魔竜の背中から生える触手みたいなのが、より強く絡みついてくるのを感じた。


 魔竜を囲むように張られたバリアのおかげで、風圧を感じずに快適な状態のまま雲を抜けられた。まるで点みたいだった都市がどんどん近づいていく。


「うーーーん、また防護結界?」


 最初は見えなかったけど、透明な膜みたいなのが都市全体を覆ってることが近づくにつれてハッキリと分かった。


『すいぶんと簡易な構造の結界だな』


「確かに、そうですね」


 竜王様のいう通り、ザイテン王国首都の結界よりもだいぶ術式がスカスカだ。すぐ壊れてしまいそう。




 ——魔竜は、結界の少し上ぐらいで大きな翼をはためかせて止まった。この高度なら、街並みや歩いている人族がぼんやりとだけど見渡せる。


「魔竜、戻って」


 竜気で背中に翼を生やして、それと同時に魔竜を消す。


 またがってたデカい図体の魔竜がいなくなったおかげで、魔竜の体で隠れていた部分も見渡せるようになった。


「すごい、揺らいでますね……」


 魔竜に乗ってる時は、あまり見えなくて分からなかった。けど、今は竜眼を通して地上にいる人族の魔力が捉えられる。


 ——それらは、大きく揺らいでいた。


 大きな黒い竜が突然現れたから恐怖を感じて、混乱しているんだろうなぁ。

 

 距離が遠くて人族の表情までは見えないけど、きっと彼らの顔は絶望を表現してるに違いない。


「竜王様、どうしましょう? ザイテン王国の時みたいに、結界を破って中から人族を倒します?」


『いや、この機会に構築速度と威力を試しておきたい魔法がある』


 竜王様がそう言ったと同時に、頭の中に一つの術式が現れる。


 うぇーー、と声に出したい術式密度。

 竜の秘宝が何なのか探してた時に見つけたけど、意味わかんなすぎて気づかないふりしてた魔法だ。


 初代竜王と二代目竜王が竜の秘宝と呼ばれる武器を作ったように、歴代竜王の一人——三代目竜王が構築した魔法術式。


 記憶にある知識はこれだけだけど、十分すぎる。


 ——こんなの難しいに決まってるじゃん。


 構築速度と威力を試すってことは、今のわたしの体ならこの魔法を発動できるってことなんだろう。そして、竜王様が放つ本来の力とどれくらいの違いがあるのか調べるってことだ。


 正直、あまり気乗りはしないけど、竜王様がやりたいならやるしかない。


『我が魔法構築の大半を担う。貴様はただ放てばよい』


 頭の中で術式が構築される。強大な竜の力で、精神が無理やり竜王様のもとへと引っ張られる。




 ——【竜炎りゅうえん】を目の前のある一点に凝縮していく。

 それに呼応して、超高密度の竜気により時間と空間が徐々に捻れていくが、別の術式でを無理やり抑える。


 頭が痛い。脳が悲鳴を上げているのを感じる。まだ、の体はこの魔法を許容できていない。

 だが発動さえしてしまえば、体と精神は耐性をつけようとし、より一層竜気に馴染むようになる。


 魔法によって強制的に一点へと押し込まれた【竜炎】は、たった一粒の雫となった。


 私の目の前に浮かぶそれは、雫でありながら紅蓮の炎。周りの景色が赤く染まり、見上げれば先程まで晴天だった空も、夕焼け空のように変化していた。


 ——今の体では、これ以上の制御は限界だ。


 仕方なく、凝縮が不完全なまま魔法を発動させる。


 それは、破壊の権化として恐れられたという三代目竜王が編み出した奥義の一つ。



焦滅アオスブルフ



 ——破壊の雫は魔法による制御から解き放たれ、重力に従って標的の都市へ音もなく落ちていった。




 

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