第20話 竜の秘宝
「高いなぁ……」
わたしは、随分と下の方に浮かぶ真っ白な雲を見て呟いた。
竜王様が操る魔竜に乗って一時間ぐらい。
人族の対飛行生物探知魔法を掻い潜るため、通常よりもずっと高い場所を飛行してるとのことだ。
今は竜に対する警戒も強まってるだろうし、人族の国を奇襲するためには仕方ない。
魔竜ではなく、自分に翼を生やして飛んだ方が竜気の節約になるんだけど、竜王様によるとこの高度じゃ厳しいらしい。
「竜王様——そういえば洞窟で、勇者に追いつかれた時のことを想定してたけど無駄になったって言ってましたよね? 記憶が混ざって曖昧ですけど……。それって何なんです?」
素朴な疑問だ。竜王様が操作してる魔竜の背中に乗ってるのも暇だし。
『あぁ……確かに言ったが、それに関しての知識は貴様の記憶にもあるはずだぞ』
「えーーーーっと」
竜王様の言葉を聞いて、自分の記憶の中を目を瞑りながら探る。
記憶の中にあるってことは、竜王様がわたしの体を作り変えた時に植え付けた知識のどれかかな?
竜王様から貰った知識が多すぎてどれか分かんない。もっと、深く潜らないと。
「うーーーーん、これ、かな……」
それっぽいのを見つけた。けど、自信満々に言って違ったら恥ずかしいしなぁ。
「竜の……秘宝、ですか?」
だから、わたしは自信なさげな風で答えた。
『……心配するな、正解だ』
ふぅーー。良かった。あってたみたいだ。けど、少し気まずい。
竜王様には心の声も漏れているので、自信がないように誤魔化す必要は全くなかったことに後から気づいたが、もう遅かった。
やっぱり心が筒抜けなのは、わたしからするとちょっと不便——というか恥ずかしい。
いや、そんな私情は今はどうでもいいんだ。
探して見つけた答え。——記憶にあるのは二つの秘宝だった。
初代竜王が、自らの体の一部を素材にして作り出した【
めっちゃ凄い能力があるみたいだけど、原理はさっぱり分からない。
知識は頭の中にあるけど、それをわたしが理解できない。
何回味わっても相変わらず気持ち悪い感覚だ。
『これらを使えば、今の我と貴様でも逃げ切ることぐらいはできよう。四肢の何本かは覚悟せねばならぬがな』
それでもそんな重症を負わないと逃げられないのか……。うーーー、痛いのは嫌だなぁ。
でも、あれ?
「じゃあ、竜王様と勇者が戦った時は……竜の秘宝を使えなかったってことですか?」
全く万全の状態じゃない今でも逃げられるくらいなのに、何で竜王様は勇者に倒されたんだろう?
『未知だ』
「へっ!?」
竜王様の食い気味な声が頭の中で反響して、変な声が出ちゃった。
『未知こそ最大の脅威よ。勇者が放った魔力浄化により、驚異的なほど緻密に編まれた秘宝は機能不全を起こしたのだ』
「でも、竜気は魔力浄化の影響をあんまり受けないんじゃ……」
『竜剣や竜槍などの単純構造魔法は問題ない。だが、歴代竜王により組み立てられた武器は、精密すぎるが故に多少の妨害で力を発揮しなくなる。
まぁ、といっても魔力を浄化されるという前代未聞の惨事でもなければ妨害にはならないがな』
おぉ……すごい細かく説明していただいてしまった。
竜の秘宝っていうくらいなんだから、竜王様にとっても大切なんだろう。
でも、【竜剣召喚】と【竜槍召喚】を単純構造魔法って……。
竜王様の知識を与えられても、それらすら理解できないわたしは相当なアホなんじゃないかって心配になる。
——ん? でも、それなら結局竜の秘宝は勇者の前では意味をなさないことになるよね?
やばい。疑問の答えから、また疑問が生まれちゃってる。
『我が【
「えッ! それって凄いですよね?」
『…………まぁな。だが、【
竜王様が自信満々だということが、言葉の起伏だけで伝わってくる。
わたしは、これがどれほど難しいのかを完全に理解できてないはずだ。そんなわたしでも、竜王様のやってることが
「流石、竜王様ですね!」
『……見えてきたぞ』
——わたしの賛辞は無視されたけど、竜王様の凄さが改めて分かったし、楽しい時間だった。
竜王様にもらった知識によると、次の標的の国の名前はアルティナ共和国って言うらしい。
「やっぱり小国の都市は、首都じゃないと小さいですね」
高度が高度なだけに、標的の都市はまるで点みたいだ。
それでも、前に襲撃したザイテン王国の首都よりはずっと小さいことは分かる。
竜王様によると、今度は首都を狙うんじゃなくて、小都市から順番に落していくらしい。
竜王様に理由を聞くと、侵略ではなく虐殺であると知らしめることで更なる民への混乱、恐怖を与える。——また、襲撃地を安易に予測できないようするため、らしい。
他にも何か理由があるみたいだったけど、教えてくれなかった。
わたしの頭じゃ、どうせ理解できないだろうって思われたのかもしれない。
——まぁ、いいや。竜王様の策略で、ザイテン王国の時と同じように人族を倒すだけだ。
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