第14話 息子
「陛下……」
腰が曲がり、白髭を胸の辺りまで伸ばしている老夫——ロム・ディノルークは建物の影に身を隠しながら、そう呟いた。
黒き竜の炎により一帯の建物が全焼したため、ロムがいる場所は少女と陛下が相対している場所からは離れている。
宮廷魔法士として近接戦闘の心得はあるものの、あのような化け物相手では足手まといになることは明白だった。
そのためロムは後衛。遠距離からの
実際その目論みは成功した。雷を落とし、陛下が少女に切り掛ることができた。
未知の攻撃による、剣の間合い外からの即死などという最悪のシナリオは阻止できた。
だが——
「やはりあの少女……中に別の何かがいる」
雷が当たるなどとは思っていなかったが、まさか一切の恐れなく最小限の防御壁で防がれるとは。術式を完璧に読み取り、正確な魔法を組み立てる能力がなければできない芸当だ。
そしそれは一度目、二度目の練度とはかけ離れていた。
突如別人になったかのような変貌ぶり。少女の元の精神ははたして原型を保っているのだろうか?
いつもなら陛下に「飛躍しすぎだ」と小言を言われるだろう。
だが陛下自身も感じているはずだ。とても少女のものとは思えない歪んだ精神が。
——陛下は強い。才能と努力、そして国宝である宝剣。ザイテン王国内でも、完全武装の陛下と一対一で勝てるものはいないほどだ。
宝剣、
遥か昔、空から飛来したとされる巨大な高濃度の魔鉱石を用いて、ザイテン王国とドワーフが共同で作り上げた剣だ。
刀身は血の如き赤さをしており、見るものに恐怖を植え付ける。
その宝剣の能力は、一度登録した血筋が濃い者が握るほど、剣の切れ味と所持者の身体能力が上昇するというもの。
宝剣に刻まれた血筋は、剣が作られた当時にザイテン王国国王だった人のものだ。
王家の血筋を濃く受け継いだものほど力を得られる。
まさしく
三大強国には劣るものの十二分に強力な武器である。
相手が化け物でなければ、明けぬ暗闇に
しかし少女はもはや、人族とは別次元の存在だ。
「ハル……爺は、信じておりますぞ」
愛称を口に出したのはいつぶりだろうか。ハルラクスが王の地位に着いてからは呼ばなくなってしまった。
ロムにとってハルラクスは敬愛する王であると同時に、息子のような存在でもあるのだ。
少女には、既に場所が特定されているだろう。探知魔法が粗末であったことには驚いたが、一度魔法を放てばそれも関係ない。
——死が見える。自分はいつ殺されてもおかしくない。ロムは理解している。
だが、既に遠い昔から命など預けている。今更恐怖など感じない。ただロムは、生涯を捧げた人と共に最後まで戦うのみだ。
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