第4話 旅立ちの時



 未だ老いると言うには早すぎる王と王妃が二人、聖なる場所、と呼ばれている岩だらけの丘にひざまづいている。

この国に貧富の差ができぬように、疫病から人々が守られていますように、争いの火は火種であるうちに消えますように、全ての人々が今日一日に感謝できる日々が続きますように。

普段なら、祈りを済ますと城に戻る二人であるが、この日は違った。


 パステルナークが祈りを終えても姿勢を変えず目をつむったたままである。

瞑想でもしているかのように静かにこうべを垂れたままであったが、一瞬、何か悪いものに触れらたかのように体を硬直させる。

そして、大きく見開いた目でロルカを見つめると、ロルカの表情が硬い。

パステルナークは、ロルカの表情を見抜くと、声を発する。


「ロルカ、あなたにも見えたか」


「見えた」


「王都が滅ぶかもしれぬ」


「然し、ずいぶん未来の事だ。私達に何ができるというのだ。そして、この啓示がどれほど信じられるものなのか? 私には分からない」


「二人で同じ啓示を見た。そして此処は聖なる場所だ」


「それが未来に起こる真実であったとして、どうやって未来へ行くというのだ」


「神殿の森へ行けば良い、そこに時の扉がある」


「私がネルーダ王国から送られてきたあの場所へ行けというのか」


「王よ、そこへ行くのはあなたではない」


「では、誰が?」


「子供達三人だ」


「子供達では若すぎる、いや、幼い」


「心配は要らない、あなたはあの子達が風の村で育てられてきた事も知っているであろう。そして私も行く。そしてロルカ、あなたはこの国の王としてここに留まらなければならない」


「パステルナーク、そなたがそう言うのならば従おう。そなたが子供達と共に行くというならばそれにも従おう。ならば、エリオットを伴うと良い、風の村からは既に数人の風の者達が巣立っている、これからもまた立派な風の者達が育っていくであろう。この国は皆の力で成り立っている。安心して行くが良い」

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