第3話 あの時



 カロッサ王国は、新しい君主の下、平和という言葉そのものを誇っている。

特に民から愛されている王妃パステルナークの人気は絶大なものがある。

それは昔、若い姫が風の者と共に妖魔大戦に向かって行き、無惨にも大敗し行方不明になった王の娘。


 何十年もかかって王が築いた平和な都を妖魔達が支配し、貧富の差ができ、疫病が流行り、争いが蔓延はびこった数年間。

貧しい者も、病める者も、希望を無くし街には諦めと悲しみの歌が響きだす。


 その闇の中へ、突如として現れた朱色の剣を携えた騎士が妖魔達を倒した。

髪は長く、精悍な顔をした騎士が城の上で民の前に立った時、美しい女性が側に居た。

そして、大きな声で叫ぶように民衆に声をかける。


「私の名は、パステルナーク、この国の王女である。隣にいる者の名はロルカ。岩山の王ポーを倒した騎士である。皆の者へ宣言する。妖魔に支配されたこの国は解放された。私は隣にいる者をこの国の王と認め、そのきさきとなりこの国のために全力を尽くそう。そして皆の者よ、よく聞いて欲しい願いがある。この国の再生のために力を貸して欲しい。生まれ変わっていく新しいこの国のために皆の力が必要なのだ」


「パステルナーク様」


 民衆の中から一人の男の声がすると、徐々に拍手が起こり、やがて絶叫にも近い声が城の周りで響き出す。

民衆は疲れを、背負ってきた不幸を、捨てることができた安堵。

それは新しい国への希望の光となり、そこには笑顔よりも先に、怒りにも近いような力強い表情が民衆に浮かんでいた。


 徐々にである、ゆっくりと何年もかけて、新生カロッサ王国が築かれていった。

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