少年は長く病に臥せっていた。唯一の肉親は五つ年上の姉だけだった。


「ぼくが死んだら、墓に桃の木を植えておくれ」


 病床で少年は姉に度々そうせがんだ。


「実った桃はぼくだよ。姉さん。どうか桃を食べておくれね。きっとだよ」


 程なくして少年は死んだ。姉は弟の言いつけ通り墓に桃の木を植えた。三年ほどして木は果実を実らせた。姉は涙を零しながら桃を食べた。小ぶりな桃は蜜のように甘く姉の喉を潤した。


 桃は毎年よく実をつけた。夏が来るたび姉は弟を食べる。弟は姉の身体を通して永遠の命を得たのである。

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