少女の花弁

 男は死体蒐集家だった。


 ある時、少女の死体を買った。栗色の長い巻き毛の少女だ。読書家が本を選ぶ時、表題から運命を感じるように、男も一目見て少女に運命を感じた。

 店主は「あまり月光に当てないように」とだけ注意して少女を売った。


 はじめ男は注意していたが、月光浴の際にうっかり少女を仕舞い忘れてしまった。はっとして少女を見ると、閉じた瞳からはらはらと白い花弁はなびらを零していた。それがあまりにうつくしく、男は月光浴の度に少女を傍に置いた。

 やがて少女は先端から花弁に変わり、すっかり全身が花弁の山へと変わってしまった。男はそれらをひとつの箱に収めると、再び少女の死体を買った。今度の少女は淡い桃色の花弁へと変わった。「何の蒐集家だか分からないな」と店主は文句を言った。


 花弁は枯れることがなかった。色とりどりの花弁と一緒に男は今日も月を見ている。

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