最終話 時を超えて、再び

 目を開けたら桜が待っていた──

 少しだけ違和感を感じでその木を見ると、先程までいた桜の木よりも花が開いている。

 それに、一緒にいたお母さんはそこにいなかった。


 『戻ってきた』


 そう感じた時に、後ろから声をかけられた。


「ユリエ」


 振り返った先には、私がずっとずっと会いたかった彼がいた。

 シルバーの髪がやわらかく揺れて、サクラの花びらが舞い散っている景色によく似合う。

 私を見つめるその綺麗な瞳は、大きく見開かれた。


 そうして私はぎゅっと彼の胸の中に閉じ込められた。

 私は手を彼の背中に回して、彼の存在を確かめる。


「ユリエ……会いたかった」


 何度も聞いたその言葉は、声色からもう会えないことを覚悟していたのだと感じる。

 吐息が漏れて、何度も私のことを呼ぶ。


「母に会ってきました」

「そうか、お元気にしていたか?」


 お母さんの笑顔と声を思い出して、また泣きそうになる。

 それでも前を向くと決めた。

 私は、自分で歩いていくと決めた。

 だから……。


「ユリウス様、私はあなたが好きです。一番好きです」

「──っ!」


 ユリウス様は私の身体を少し離すと、頬に手を当ててくれる。

 大好きな人の手は優しくてあたたかい……。


「私は何度もユリエを危険にさらしてしまった。だから、あなたの傍にいる資格があるのか、ずっと悩んでいた」

「ユリウス様……」

「でも、あなたとまた離れて。こうしてまた会って。やっぱり思った」


 私の目を真っ直ぐに見つめて、ユリウス様は私に言った。


「好きです。あなたが、私もあなたが一番好きです」


 そうして私の唇に、彼の唇が重ねられる。

 サクラの木の下で、想いを伝え合うことができた。


 お母さん、私のこと見てて。

 ちゃんと大好きな人と未来を一緒に作っていくから。


「ユリエ、一生私の傍にいてくれませんか?」


 私はその言葉に一つため息を吐いて、彼の胸に飛び込んだ──



******************************


【ちょっと一言コーナーとお礼】

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました!

ユリエちゃんとユリウス様の恋、そして短編では描けなかったお母さんとのお話など。

そしてレオとの出会いも描けました。


応援してくださった皆様、ありがとうございました!

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【完結】王太子と婚約した私は『ため息』を一つ吐く~聖女としての『偽りの記憶』を植え付けられたので、婚約破棄させていただきますわ~ 八重 @yae_sakurairo

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