第6話 書庫室での作戦会議
エリク様が王妃様の共犯者であるとわかった次の日、私はじいじの伝言によって集合をかけられて書庫室へと向かっていった。
リアの反応的にそろそろ病弱設定も無理がきたわね。
そう、毎回風邪で休むやら今日は気分が優れないやらいろいろ言ってきたのだが、あまりの頻度にリアもちょっと疑いの目を向けてきた。
おそらく医師の診察を断ったからだろうけど……。
そろそろ決着をつける時が近いってことね。
そう心の中で思いながら、私は書庫室へと歩みを進めた。
「こうして会うのは久しぶりですね」
「ええ、いつも手紙のやり取りでしたから。いつもユリウス様は字がお綺麗だなと思いながら見ております」
「そうでしょうか? 初めて言われました」
「嘘?! とても綺麗で美しい品のある字だと思います」
「あ、ありがとうございます」
「字に関しては左利きなもので癖がある字だと思っていたのですが……」
「そうだったのですね! でも右利きでも左利きでもユリウス様の書く姿は気品あふれるんだろうな~と思っておりました」
「……そ、そこまで褒めていただけると、その、もうおやめくださいっ!」
ユリウス様は恥ずかしそうに頭を搔きながら少し目を逸らして顔を赤くする。
字でもその真面目さを感じられたけど、なんだかこうした反応を見ると可愛いというか、好感が持てるな。
「こほん。ユリウス様、聖女様、そろそろよろしいでしょうか?」
「え、ええ。ごめんなさい書庫室長」
「いえ。先日の調査によりやはりエリク様も王妃様と共犯で記憶の改ざんに関わっていると」
「はい、改ざんの儀式などそのものに関わっていなくとも、やはり不自然に記憶を覚えていないことが多いです。それに私の事を「聖女」としてしか見ておらず、私自身を愛する気持ちもないこともわかりました」
そう言っていてなんだか自分自身で悲しくなる。
愛してほしいなんて思っていないけど、私が捧げた一年は一体なんだったのだろうかとは思ってしまうほどにはなっていた。
「それと、そろそろリアが何か不審がっている様子が見られるのでこれ以上風邪での休みや不用意な移動は避ける方がよいかもしれません」
「そうですね。こちらとしてはかなり証拠が集まってきたので、あなたはいつも通りの生活に戻ってください」
「わかりました」
「緊急度の高い事案発生や何か新しい情報を仕入れた際のみお手紙をください」
「かしこまりました」
こうして限られた時間の中で王妃をどのように王宮から追放するか、エリク様へどのような罪を与えるかの会議がおこなわれた。
◇◆◇
書庫室にて作戦会議が開かれた数日後のある日、王妃様が廊下の向こうから来るのが見えたため、私はいつものようにカーテシーで挨拶をして王妃様が通り過ぎるのを待った。
王妃様がすれ違う瞬間にそっと扇で口元を隠しながら私に対してそっと呟いた。
「あなた、わたくしが“行ってはいけない”と言ったところに行ったそうじゃない?」
(──っ!)
すぐに書庫室のことだと思い否定しようとしたが、違和感に気づき私は落ち着きを持ったいつものおしとやかな令嬢口調で返答した。
「申し訳ございません。王妃様はわたくしに行ってはならないと仰った場所などないと思うのですが、ご気分を害されることをわたくしはしてしまったのでしょうか」
「…………ええ、そうね。行ったらいけないなんて言ったことないわよね。ごめんなさい、勘違いだったわ」
「いえ、寒くなってきたので王妃様もお体にはお気をつけくださいませ」
「ええ、ありがとう」
そう言いながら王妃様は私のもとを去っていった。
王妃様が去ったあとで唾を一つごくりと飲んだ。
私の心臓はドクドクと脈打つように鳴っており、心の中では恐怖心で溢れていた。
(そうだ。『行ってはならない』とは言われていない。おそらく私に行くなと暗示をかけさせた。記憶を取り戻したかを探って来たということはやはり王妃様は黒)
私の額に一筋の汗が流れたのを拭うと、その足で自室へと向かった。
***
【ちょっと一言コーナー】
ユリウスの字は今の日本でいうと、かくっとしっかり止めはねができた気真面目そうな字です。
英語だとさらさらという感じでしょうが・・・
左利き設定ようやく出せましたっ!
【次回予告】
王妃からの疑いの目を潜り抜け、いよいよ王宮追放の時が迫っていた。
無事に成功するのか……?
そんな時、ユリエは裏庭に、ある木を見つけてそこで……。
次回、『第7話 折れそうな心』
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