第10話 屋敷の譲渡と動き出す元同僚
目の前の魔法陣から旧友にして、仕事の同僚のリッタが姿を現した。ボサボサに伸ばした紫の髪に、ブカブカの白衣を着崩しており、ザ研究者といった感じだった。昔と姿が一切変わっておらず、まるでリッタの時間がそのまま止まってしまったかのようだった。
そういえば元魔王軍の四天王は女性でしか構成されてなかったが、全員が全員容姿に特別こだわりはなかったなぁ。私も私でそこまで着る物とかにこだわってたわけじゃないし。現に一番着やすいワンピースを着用してるわけだし。
私がリッタや元同僚のことを懐かしく思っていると、リッタが口を開いた。
『先に言っておくけどこれはあらかじめ取っておいたものを投影しているだけだから話しかけても無駄だからね。そこんとこよろしくぅ。って事で自己紹介も終わった事だし手短にいくよ』
リッタはゴホンッと咳払いをしてから口を開く。
『私がこうやって映像を残しているってことは既に死んでいる、なんて考えてる人もいると思う。けどそんなことはないよ。私は長命種だからね。そう簡単にはくたばらないさ。って、そんな事説明するために記録を残したんじゃなかった。話を戻そうか。これを見ている人はなんらかの方法でここに配置されているゴーレムを打ち倒したんだと思う。それはおめでとう。まずはここがなんなのかの説明をしたほうがいいかな?うーん、話したいことがいっぱいあって困るなぁ。何から話そう」
「そういえばリッタってこんな性格だったなぁ。会えばよく喋ってたし、主にリッタがだけどさ」
「ほぇ、そうなんですか」
「うん、リッタに話をさせたら本当に無限に続くんじゃないかってくらいすごいよ。ほんと今みたいな感じ」
私は目の前であれでもないからでもないと考えているリッタに視線を向けながら微笑みを浮かべる。本当に懐かしい。リッタは今どこにいるんだろう。
『うん、決めた。手短に頑張って要点だけ話そう。てことでまとめて話すね。まず一つ、この屋敷は元々私が研究のために使っていたものさ。まあここ以外にも世界各地に点々と似たような屋敷があるんだけどね。そして二つ目、研究室作りすぎたから誰かにあげたい。というか処分してほしい。ぶっちゃけそんなにいらんかったわ。三つ目、ゴーレムに関しては完全にお遊びでノリと勢いで作った感じ。他の屋敷にも似たような奴らがいるよ。四つ目はゴーレムを倒した人にこの屋敷を基本的には譲渡するような形になるからね。私との会話が終わったら魔法陣から指輪が出てくるようにしてあるから、それ付けて。指輪の効果は付けている人がおっけー出さないと屋敷の敷地内に侵入できないって感じ。ラストだけど私は今、どこかの屋敷でちょいと研究してるから、もし今の説明でわからないところがあったら聞きにきてね。稀に私から屋敷の様子を見るために赴くこともあるかもしれないからその時はよっろしくぅ。そんじゃまたねぇ〜』
リッタはブンブンと手を振って別れの言葉を告げる。それから少ししてからブンっと音を立てて映像が消えた。消えた後、魔法陣のあったところに赤色の宝石を嵌め込んだ指輪が転がっていた。おそらく話の中にあった指輪だろう。
私はそれを手に取って掲げてみる。
「うん、リッタにしてはデザインいいじゃん」
私は指輪を右手の人差し指に嵌めてからグーパーして感触を確かめる。
「よく手に馴染むなぁ。これなら常時付けてても違和感はなさそうかな」
私がうんうんと頷いているとリリアがトントンと肩を叩いてきた。
「この屋敷はどうするんですか?それと、あのリッタさんって人に会いに行くんですか?」
私は少し悩んでから口を開く。
「やることもないしとりあえずここを拠点にしてこれから過ごしていこうかなぁなんて思ってる。それもシャノンに報告してからになるだろうけどね。リッタに関しては今は会いに行かないかなぁ。そもそもリッタがこの世界のどこにいるのかもわからないし、あてもなく歩いていたらそれこそ無駄ってもんだよ。とりあえずギルドに報告してから、かな?」
リリアはコクリと頷く。
「それでしたらすぐにここを出ますか?」
「うーん、そうしよっか。報告した後にまた来ればいいし」
私たちは並んで部屋を後にした。
★
『第一の屋敷が攻略されました』
室内に無機質な音声がこだまする。そこは薄暗く、カーテンからわずかに差し込む日差しのみが室内を照らしていた。周囲にはビーカーや試験管、何かを書き殴った紙によくわからない液体がそこら中に散らばっていた。そんな一室に1人、椅子にだらっと体を預けて今聞こえてきた報告に何度か頷く。
「なるほどねぇ、第一の屋敷が攻略されたんだね。いやぁ、あの防御力を突破する人がこの時代にいるなんてね。まだまだこの世界も捨てたもんじゃないなぁ」
リッタは試験管をクルクルとペン回しの要領で回す。
「さて、誰が攻略したのかちょいと覗き見てみよっかなぁっと」
リッタは右手を掲げて魔法を発動させる。これは予め第一の屋敷に魔法陣をセットしてそこの状況を逐一見れるようにしているのだ。
魔法を発動すると前方に縦1メートル横1メートルの正方形のモニターが出現する。そこには2人で仲良く探索している少女が映し出されていた。
「へぇ、女の子2人でここを攻略した、ん、だ?ん?なんか片方見たことあるなぁ。んんんん?」
リッタは目の前の机に手をついて体を前のめりにして目を細める。
「ん?え、これもしかしてレミリア?うっそ!?あの万年お寝坊さんが起きたの!?やばっ、早く研究進めなきゃじゃん!」
リッタは急いで立ち上がり、研究を再開させる。先ほどまで見せていたダルッとした感じはもう無い。
「あぁ、もう少し起きるの遅いと思ってたんだけどなぁ。ま、レミリアが寝ている間に研究はだいぶ進んでいるからこの研究ももうそろそろで終点、かなぁ」
リッタが視線を向ける先には1人の少女が十字架に貼り付けられており、全身を脱力させていた。長く真っ赤に燃えるような髪がとても印象的な少女だ。
「さぁて、これを見たらレミリアはどんな表情をするのか...。今から楽しみで仕方ないよ。あっはははははは!」
暗い暗い室内にリッタの狂ったような笑い声がこだました。それを聞く者はこの場には誰もいなかった。いや、磔にされている1人の少女を除き...。
--------------------
ここまで読んでいただきありがとうございます。
次回の投稿は2月23日になります。よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます