第23話 ディペンド

#15

非番。

学校から帰って暫く眠っていた。

「今からですか」

バイト先からの電話だった。

一人欠勤で穴が埋まらない、との事だった。

「わかりました」

電話を切って、ベットから起き上がる。

夕暮れで薄暗い部屋を蛍光灯で明るくする。

欠勤か。理由は大体判る。使い過ぎだろう。施設送りに成らなければいいが。

明日は我が身でなくてよかった。


階下に降りると母親が夕食を作っていた。

「バイト?」

聞こえていたらしい。

「帰ってから食べるから」

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」



#16

施設は北の郊外にあった。ロケーションの理由は、気温が低い、だった。灰色の鉄筋コンクリートの建物。学校の校舎ほどの規模。情報では、此処に入所している、との事だった。



「わざわざ此方まで?」

「此処へ入所されたという情報がありまして」

「患者さんの名簿は見せられませんが」

「見学させていただければ」

「この女性が入所しているという記録はございません」

「見学は?」



「結局直当たりですか」

「見学の許可は出たので」

「知人が来れば認識するだろうと?」

周囲を囲う塀もなく、オープンな庭園を抜ける。

正門の自動ドアを通り、受付で入館記録をつけた。



#17

「先生。先程の患者さんですが」

夕方、まだ若い女性が診療に来た。恐慌状態に陥っていたので点滴を打って、病室で寝かせてあった。

「あれかね」

「血液採取の結果が」

「依存症患者だった、と――」

カルテに血液検査の結果を記す。

「――代替え薬投入しておいて。新しいのが来てたでしょ」

「わかりました」

依存性の高い薬物の代替え薬物を投入し、次第に依存症から脱却すると言う治療法だった。

開戦前から此の国では脱法ドラック流行りで、年間百万人単位で中毒患者が増えていた。薬物の解毒は可能なものの、薬物によって嗜癖を学習した神経系のリハビリが大変困難で、現時点での治療のプロセスは、代替え薬を投入しつつ、受容体ができ依存症を発症した神経の新陳代謝を促し、リハビリする、と言うプロセスだった。

分裂増殖しないと言われていた神経を、分裂増殖させる、と言うのが、旧来より新しい治療法で、新しい代替え薬は、成長薬と併用する事になっていた。依存症患者を多く抱えるこの国ではこういった新薬は鋭意開発されているが、その反対に、高依存度の違法ドラッグ蔓延も止まらずにいた。

「ふぅ」

看護師が出入り口で溜息をつく。

「どうしたの?」

「何時終わるのかと思って」

「ああ」

依存性薬物との闘いは戦争が終わっても、終わっていない。その意味では今も戦火の中だった。


「―ーすみません」

言葉を掛ける前に看護師が気を取り直した。

「挫けず頑張る、他は無いよ」

其れが職業倫理の職場だった。







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