第20話 トラップ

#5

相変わらず続く焚書。来期から教科書を有償化するそうだが、其れで治まるかどうか。上の決定も絶対ではないなとも思う。

既に燃え尽きかけの焚火。煙が高く空へと向かい拡散していく。

いつまで授業が続けけられるだろう。

メールが来ていた。オーダーからのメールは専用回線に由るので基本的に傍受されない。此処も偽装を新しくする必要がありそうだった。



#6

環状線。

複数の鉄道会社が乗り入れている大きな駅の前に依頼人の仕事場が在る筈だった。見渡した範囲の少し入った裏手にそのビルはあった。

三階まで階段を上る。職場と言うより待機場所と言った感じの事務所スペースだった。アイホンは無い。

ノックして扉を開ける。派遣企業と言う事だったが、此処から直接人員を送り込んでいるのだろうか。男女混成十人未満の人が待機しているように見えた。

写真を見せて、依頼人の在不在を尋ねる。


少し待たされて依頼人が出勤してきた。

「初めまして、間十日です。お待たせしました」

「初めまして諭明です」

「此処でいいですか?」

「個人情報は?」

「知れてる連中ばかりなので」

そうですか、と答え、窓際に陣取って二人とも座った。


女子の社員がお盆に載せてお茶を持ってくる。

一口付けて、デスクに置く。

「早速ですが、対象者のバイト先は此処で」

「ええ。」

「派遣企業と言う事ですが」

「一応。」

「間十日さんと対象者の関係は、友人?」

「此処で知り合いました」

「失踪を知ったのはどういう経緯で?」

「出勤日に出勤してこなかったから」

「警察に通報しなかったのは?」

「社の信用が下がっても困るので」

「バイトをしてた理由は御存じですか」

「いいえ」

「そうですか。此処まで未だ未発見です。捜査を警察に切り替える事は?」

「考えておきます」

成功報酬分抜きで、此処までの賃金を最低時給換算で請求した。依頼人は、振り込みを約束した。

「入金を確認次第、来週の調査に当てます。この会社、四期報に載っていますか?」

「多分」



#7

深夜。ベッドタウン。閉館した私塾のビル。

辺りの静けさも防音環境の中ではあまり判らない。

通信内容の伝達に塾長室に入る。

「塾長?」

「新薬の実験結果を見ている」

塾長は籠りきりでノートPCの液晶を見ていた。

見ていてきりがなさそうなので、続けて伝達する。

「引っかかったようですよ」

「何処まで来た?」

「職場の手前」

塾長は実験データから目を離さない。

「何ならオチるか試すように」

「何時も通りですね」

「ああ、いつも通りだ」


塾長は何だか笑っているようだった。


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