第17話 向こう側の正義_2


#12

無人探査機が時間を超えて3年過去へと旅立った。探査機は予定どうり所定の場所で直ちに発見され、そのトラベルログが回収された。

Time Travel Systemが開発され、有人時間移動計画が発動したのはその一年後、「RB‐12号」と言う有人探査機によって十年過去のこの国に送り込まれた。

国土回復計画。

其れが初めての有人時間移動計画の計画名だった。


#13

消防が来て、焚き火の後始末をしている。

万一延焼しても困るので、消防も渋々来ていた。

焚書派は面白くもなさそうに見ていたが、こちらも渋々と三々五々散っていった。


#14 

二階の窓から見ていた焚書の現場の跡片付け。

人は居なくなったがまだ消防が放水していた。

HRで集まっていた生徒たちも同じように窓から焚書の後始末の様子を見ていた。

今日は焚書派と警察の衝突もなかった。

窓を離れて教壇に立つ。

「HRを始めるぞ。日直の人」

日直が全体に号令をかけ起立して礼をする。着席、全員再び着席する。

周の世に於いて礼が滅びて、ほどなく国も亡びたというが、この国も、学校も、礼が滅びない内は命脈を保つだろうと、そんな感想を抱かせた。

生徒は儀式だからしている訳で、何に対して礼節を保っているのか恐らく知らないだろうが。

「出席を取る」

あ行から始まる出席簿で一人一人の名前を呼ぶ。家庭訪門を実行した甲斐も有ってか欠席なく出席していた。

「改めて皆さんおはようございます」

「おはようございます」

「それでは、今日から、先週からの課題と今週の目標を一分以内で述べてもらおうと思うのですが何か質問、異議等ありますか?」

「書類にしたら如何でしょうか」

早速女子生徒が一名手を挙げた。書類にすることは難しくはない。労力も動員を掛けるか電算化すればそう問題ではない。だからあえて聞く。

「何故ですか」

どうせ人材測定の為にデータ化したいのだろう、と皮肉が言いたかったのだろう。

二手目で意を吐いてしまう。

「推移の記録に」

言ってから意図が読まれていることに気付く女子生徒。

女子生徒と他の生徒が騒がないか様子を見る。

騒ぎ出さないのを見て取って語り掛ける。

「未だ何のデータを採るか決めていないので口頭で十分です。皆さんが一週間を有意義に過ごすための備忘的役割が果たせればそれでいいと考えています。書類の案はまた検討します。他に?」

女子生徒は黙り込んで座った。他の生徒が、面倒そうに続ける。

「データにすることが重要なのではないのでしょうか?」

確かに人材管理は目的の一つではある。が。

「必ずしもデータにすることが主眼ではありません。データにすることが必要な時、協力を頼もうと考えています」

非協力的人材は矯正されるのが常。生徒には協力的であって欲しかった。

もう一度女子生徒が細々と尋ねてくる。

「データに成りたくない人はどうすれば良いのでしょう」

データに成りたい、と言う者など特に居ない。もっともな質問ではある。だからと言って無制限に拒否を許すわけには行かない。

「特別に理由があれば対応いたします」

例外処理として残しておこうと思った。

「それでは、先週の課題と今週の目標を出席番号一番から」


#15

中心街から電車で一時間ほど西へ下った郊外のベッドタウン。

午前中、日が高くなる前に現場に着いた。

現場は解体されずに残っている小学校の校舎。凡そ40年前に建築された鉄筋コンクリート三階建て。廃墟になった校舎の校門は閉ざされて部外者立ち入り禁止になっていた。

校門の鉄扉を鍵で開けた。

下駄箱で靴を脱ぐかどうか考えたが、上履きもないので土足のまま上がらせてもらった。

埃の積もった廊下を歩いていく。

階段を上がってすぐ左手の教室、2年5組の教室に入る。

此れと言って荒れた所の無い教室。

壁際にはロッカーが設置してあった。

ポケットからもう一つの鍵を取り出す。

ロッカーを開ける。中には幾つかの封書が入っていた。

「お手紙発見。」


二階の窓から見える校庭とその向こうの自然に満ちた景色は山間部の農村のようだった。

帰るには勿体ないくらいの良い天気。

日の差し込む教室で封書を開ける。

メッセンジャーからの手紙を読む。

封書の中に入っているはずのメモリーの存在を確認する。


「未確認の敵の存在、か」

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