第16話 向こう側の正義_1
#11
接近すると男は凄くきつい目で言った。
「何だあんた?」
「偶々居合わせた善意の第三者」
「その善意の第三者が何だ」
「その子、略取するつもりだっただろう。」
「……」
「はいかいいえで答えてくれ」
「答える義務はない」
「略取するつもりはなかった。はい、いいえ何方」
黙り込んだ男は俯いて何か考えているようだった。
男はポケットに手を入れた。
「その辺にして置け」
男の背後に立った別の男が男の手を掴んで制止した。
「先生?」
先生と呼ばれた男は掴んだ右手を捻り上げた。
男の手から黒い金属が落ちる。
先生は金属を拾った。
セーフティーを外し、地面に向けて、引き金を引く。
発砲音がして、広場の全員が一瞬此方を見た。
「持っていけ」
先生は男に金属塊を手渡した。
男は捨て台詞も残さず去っていった。
周囲が騒めく。
警官がやって来たようだった。
事情聴取の立ち話は十分と掛からなかった。
警官はモデルガン所持の男を連行し巡視車両に乗って去っていった。
「生活指導、ですか」
「其れもありますが、事件に出くわしたのは偶然です」
「教え子ですか」
「うちの高校です」
生活指導とは言えあんな危険に直面してよく動じないものだと思った。まるで訓練された兵士のような冷静さだった。
「あとを絶ちませんね、こういう事件」
本当に偶然だったのか検証してみる。
こう言う事件と言うのは、未成年者略取等、学生を含む所在国外移送関連の事件。
「御時勢では済みませんから」
場数は踏んでいる気がした。
「この子、ご存じありませんか?」
資料の写真を一枚手に取って見せる。
「うちの生徒ですか」
「ええ、まぁ」
本当に知らないような様子だった。
巡視車両が来たあたりで広場のヒト気は絶えていたが、警察が帰ると再び人が集まってきた。五分と掛からずもとの雰囲気に戻っていった。
警察とは別に高校と事件との距離や構造の現在を事情聴取したかったが当面保留にすることにした。
最後に申し遅れた自己紹介をする。
「諭明です。」
「錫井です」
「先生」
落ち着かなそうな女子高生。
「それでは」
先生はそう言うと女子高生に急かされつつ去っていった。
「教員免許、とっておけばよかったかな」
やりがいありそうな職業に見えた。
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