第11話 フリーズ

#8 

埋立地の倉庫街。

貰ったファイルにあった地図はこの場所を指していた。国内に流入した物も国外に送るものも一端此処に集積されるようになっていた。

「冷蔵庫か」

被害者は此処の冷蔵庫に監禁されているらしかった。


#9

「折角の情報だったんだが、復横槍が入っちゃったよ」

刑事は苦笑いしながら、名絃にお茶を進めた。

「HQの方は?」

HQ、ヘッドクオータ。占領軍の前線司令部。この刑事はHQに顔が利く。甥が職員なのだそうだ。

「頼んでみたら、居所が判ったよ」

刑事がマイクロSDを名絃によこした。

暗号解除のパスはいつも通りだろう。

「着いたら連絡しますよ」

公開捜査に移ってから賞金首として捜査に当たるというう言い訳。報酬の受け取り方法でもある。

「終わってからでいいよ」

刑事は、一件落着、と笑って部署に戻っていった。


#10

外壁がレンガ造りの当該の倉庫。

あたりに街灯は無い。

行きかう車のヘッドライトが道を明るく照らしている。

水産業者の冷蔵施設だったらしいが現在では外資系に買収されて、再操業するまで非稼働になっている、との事だった。


倉庫通用口の前に立つ。

鉄製扉のノブを回してみたがやはり普通に鍵が掛かっていた。

ズボンの右ポケットを探り、倉庫の管理会社から借りた鍵をだす。

扉を開ける。入って右手にあった配電盤のブレーカーを上げる。

照明が付いていきなり明るくなる。

変なうなる音がしだした。

多分モーター音。

冷蔵庫のスイッチまで入れてしまったらしい。明るくなった倉庫の配電盤には英字の略号しか付いて無かったが、見当をつけてブレーカーを落とした。

モーター音が停止する。

見取り図を見て現在位置と被害者が幽閉されている冷蔵室の位置を確認した。

ドアがオートロックの場合を考えてブレーカーを入れて置く事にした。

再びモーター音が鳴りだした。


明るくなった倉庫で大きな冷蔵室を見つけるのは簡単だった。

冷蔵室の前に立つと足元を何かが弾けた。

照明が落ちる。

急な明度変化で暗順応が追い付かない。

真っ暗になった視界に敵の姿を探せなかった。

「死地へようこそ、諭明名絃」

気が付くと背中に硬い金属を突きつけられていた。

「炎精――」

背後に居るであろう敵が絶叫する。

続けて青い人魂のような光が名絃を照らし出す。

何処の勢力かは聞いていたが、また彼らとは。

「術を見たりなかった、と」

青い人魂の照らす視界内には今絶叫した敵二名以外見つからなかった。


#11 

音まで凍りそうな冷蔵庫の中。

モーターが鳴ったり止まったり。

誰か来た?

吐く息はすっかり白かった。

援軍が来たのだろうか。

不意に冷蔵庫の扉が開かれた。

「誰?」

「復会いましたね、」

どこかで見た顔の男のシルエット。

「警察の人?」

とてもそうは見えないけど状況に鑑み他にない気がした。

男は苦笑一つせず笑みを浮かべて自分を紹介した。



「依頼で来ました、諭明名絃です」

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