4-1 マネージャー業務?

 俺、九条進が七原ユウのマネージャーになって3日。



「はぁ……」

「す、すみません……」



 ある舞台裏、俺は大きく溜息を吐き、七原は項垂れていた。



 今の俺の心情を一言で表すとすると、絶望だった(?)。



 時はマネージャーになった翌日まで巻き戻る。



 ***



「九条さーん」

「……何だよ。こんな朝早くに」



 マネージャーを引き受けた、翌日午前5時半。何十回ものチャイムを鳴らされた俺は、寝癖そのままで玄関から顔を出した。


 業務は8時からの筈。こんな早起きする筋合いはないのだが。


 そんな事を思っていながら、俺は七原を睨む様に見た。


 するとーー



「私、九条さんの分の朝ご飯も作っちゃったので一緒に食べましょう!」



 七原の手には白く丸い皿の上に、目玉焼きとソーセージが乗っている。


 これはまだ夢なのかと疑った。俺の業務は、七原のマネージャー。つまり、七原のお世話をする事。

 それこそ料理や掃除、七原を朝起こしたりとした事が仕事だと思っていたのだが…これだと俺がお世話をされている事になるのではないだろうか?



「…………食べるわ」



 だが、朝1番。まだ朝日もまともに浴びてない俺からしたら、それは些細な事だった。



「はい! それではお邪魔しますね!」



 俺は七原を迎え入れると、朝食を取った。



 やはり美味い。目玉焼きも君が良い具合に半熟で、ソーセージもパリパリで食べていて気持ちが良い。



「はぁ〜、ご馳走様」

「はい、お粗末さまでした。あ、そう言えば九条さん。今日の業務だって、これ高梨さんから預かって来ました」



 七原が1枚の紙を差し出してくる。

 こういうのは早めに出して欲しいんだが。


 そう思いながら俺は紙を受け取る。



「……ん?」



 俺は紙を見た後、何かの見間違いかと一度目を擦った。

 しかし、結果は変わらなかった。



「な、何だ、このスケジュール表……」



 渡されたのは、びっしりで何分刻みで予定が書かれているスケジュール表。


 午前8時から、午後11時まで。



「? どうしたんですか?」

「い、いや……これはいつも通りなのか?」

「はい。休む前まではこれが普通でしたよ?」



 労働基準法はどうした。これだと給料2倍だと言われてもやる気が失せる……ま、だからと言って仕事を引き受けてしまったからには、やらなければならないんだが。



「それで? 最初は…自分の部屋紹介って書いてるんだけど?」

「はい、『貴方の部屋見せて!!』っていう番組で私の部屋がどんな感じか見たいらしいです!」

「ほう」


 俺はそれに冷静に頷きを返した。


 しかしーー



(ま、マジか。有名な番組じゃん…)



 心の中ではびっくりし過ぎて、なんかもう、引いていた。

 普段テレビを見ない俺でも聞いた事がある。そんな番組にもコイツが……意外…でもないか。


 俺は改めて、七原を頭から足元まで舐める様に眺めた。


 サラサラの銀髪、日本人離れしたモデルスタイル。そしてスタイルとは裏腹に、癒される優しげな顔。

 道をすれ違ったら、多くの者が振り返るだろう容姿。モデルになるべくして産まれた様な存在だと、見た目からはそう思える。


 俺から見てもそう思える。

 ま、綺麗だと思ってるんだって思われるのは癪だから何とも思っていない風を装ってはいるが。


 俺は肩をすくめて、時計を確認した。



「7時から……だからまだ寝てても良いよな? 俺はまだ寝足りないぞ」



 俺はお前の部屋なんかに興味ない、そう言わんばかりにそっけなく言ってやった。


 しかし、それに七原は不思議そうな……何処か誤魔化す様な表情を浮かべ、指を唇に当てながら答えた。



「7時から、ですよね? じゃあ、その………そろそろやらないと間に合わないんですよ」

「は? 何がだよ?」

「…………掃除です」



『私、料理とか裁縫は一通り出来るんですけど……片付けがどうしても出来なくて……』



 oh……。


 俺は前に七原から言われた事を思い出し、思わず頭を抱えながら準備を進めるのだった。

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