受付嬢は嵐のように

「お待たせしました〜!」


 ドーン、と扉が開いて、受付のお姉さんが出てきた。

 その勢いたるや、私の中の違和感を端微塵ぱみじんにするには十分すぎるくらいだ。

 何より驚いたのは、その手にある書類の、量。


 抱えられた書類それは、ギリギリ扉を通れはするもののお姉さんの身長を思いっきりオーバーしていた。


 え?どーゆーバランス感覚でそんなの持ってんの?腕疲れないの?あ、そーやーこの人ゴリラだったわ。(←失礼)そっかそっかぁ。なーるほど?



「すみません、カエデさんにお渡しする資料を選考していたら思いのほか時間がかかってしまって!」

「あ、はい………ありがとうございます?」



 え、『選考していた』?選考してその量なる?いやいやどう見てもある資料全部持ってきましたって感じじゃない?

 そんな私の思いなど伝わるはずもなく、お姉さんはさっきにも増してキラッキラな笑顔で言う。


「ではまず、こちらが我がギルドが発行しております初心者むけのパンフレットになります!」

「あ、はい」



 渡されたのは、カラフルなイラストも多く使われたパンフレット。

 へぇ〜、読みやすそう。



「そちらのパンフレットには、冒険者システムについてや、職業ジョブ選びのポイント、それとギルドについて少々。初心者にぴったりな一冊となっております!」



 説明をききながらパラパラめくってみると、なるほど確かに私が今知りたい情報がちゃんと載っていた。



「それから、こちらは冒険者の歴史についてまとめた資料です!」



 ドン!と音がしてテーブルに資料が置かれる。


 ………………ドン?


 違和感をおぼえてテーブルに目を向けると、ハ○ーポ○ター(ハードカバー版)なみに分厚い本が置かれていた。


 は!?いきなりこんな分厚いのきちゃった!?いや確かに資料だけども!?



「そしてこちらは、冒険者の成り立ちにも深い関わりのある創世神話です!」


 ドン!


 今度は立派なハードカバーの本(分厚め)が置かれる。


「この本は、保持スキルと魔法などとの相性についての論文をまとめたもので!」


 ドサッ!


「こちらはかつて存在したといわれる伝説の冒険者についての本です!」


 ドスン!


 私がパンフレットを持ったまま固まっているうちにも、どんどん資料は積み上げられていく。

 資料はすでに、お姉さんの胸くらいまできていた。


当然、私の視線もそこへいく。


 しかしお姉さん、前から思ってたけどけっこう………いやいや、何を考えてるんだ自分。しっかりしろ、うん。

 私はそっとお姉さん(推定Fカップ)から目をそらした。


 だが、私が心の中の悪魔と戦っている間にもお姉さんの説明(マシンガン)は止まらない。ついでにどんどん資料(?)も積み上がっていく。


 ………え、これずっと続くの?

 いやいや流石にそれは……えぇい仕方ないッ、勇気を出すのよかえでッ!


「あ、あのぅ…………」


 おっと、あれだけ勇気を振り絞ったとは思えないほど情けない声が出てしまった。


「はい、何でしょうかカエデさん」

「えと……その……大変申し上げにくいのですが………」

「?」


 あぁっお姉さん、そんなに見つめないでください緊張します!(←陰キャモードON)


「量が多いと思うんですけど」


 と、言ったのは私ではなく………ローザさんだった。

 あぁ、また助けられてしまった………。


「えっ!?そうですか!?」


 いや、そりゃそうでしょうよ!!

 全く心当たりがないというような顔をするお姉さんに、私は内心全力ツッコミをかます。


「カエデは………ほら、初心者みたいな状態ですし。あたしはとりあえずこのパンフレットだけでも十分かと思うんですけど」


 あ、ローザさん、今『記憶喪失』をうまい具合にオブラートに包みましたね。

 しかーし!その助け舟………めちゃくちゃ助かりますッ!!


 私がこくこくこく!と全力でうなずくと、お姉さんは「そうですか……」と言って目を伏せ。


「しかし私としては、冒険者の皆さまには是非知ってもらいたい内容ばかりなのですが…………」


 控えめに、ぽそりとつぶやいた。

 うーん、このまま断るのも気が引ける、というか…………(←コミュ症)


「あ……じゃあ、創世神話だけ、お借りしても良いですか?」

「ぜひ!」


 そう言ったお姉さんは、今日でいちばん嬉しそうな顔をしていた。




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