これは………夢、だよね?

「あ、あのっ、ローザさん、ありがとうございましたっ」

「ん?何が?」


 二人きりになった応接室で、私がお礼を言うとローザさんはきょとんとした顔になった。


「えと……うまく話を切り上げてもらった、っていうか」

「ああ、それね。いやー、あの人、悪い人じゃないんだけどさ。本人も言ってたけど、スキルとかレベルとかクエストとか………そういう話になると我を忘れるっていうか、熱中しすぎるっていうか。ちょっと困ったくせがあるんだよね」

「そうなんですか………」


 見た目は優しくて真面目そうなんだけどなぁ……ギャップ萌えかしら?

 そんなことを考えつつ、私はさっきから気になっていたことを質問した。


「あと、あのお姉さん、ただの受付さんって割には力が強かったような気がするんですけど、気のせいですか?」

「気のせいじゃないよ。ギルド職員は有事の際に対応できるように、部署関係なく一定以上の戦闘能力が求められるから」


「ゆ、有事って…?」

「冒険者同士のケンカとか……この街にいる冒険者だけじゃ対応しきれない大規模なクエストとかだね」



 だからか……


 って、そしたらギルドの中で見たほかの職員(可愛い受付嬢ふくめ)さんも全員ゴリラってこと?

 …………人って見た目によらないんだね(←お前が言うな )


「大丈夫?」

「へ?」

「その手……ちょっと見ていい?」


 断る理由もないので手を出すと、ローザさんはそっと私の手を包み、何か探るように触れる。


「ふむ……骨はとりあえず大丈夫みたいだね。関節とかも……だいたい異常なし、かな……」



 どうやら私の手の様子を診てくれているようだけど、『とりあえず』とか『だいたい』っていう言葉が気になるんですが。



「うん。ひどい怪我にはなってないみたい」


 そう言って、ローザさんは手を放す。


「そ、そうなんですね。よかった………」



 ホッとして、気づく。

『ひどい怪我』にはなってないけど『ある程度の怪我』にはなっているのでは!?

 え、そこんとこどーなの。聞きたい。

 が、私が口を開く前に、ローザさんが話してしまった。



「でも、やっぱり痛かったんじゃない?よくこらえてたね、カエデ」



 ローザさんの口から飛び出した予想外の言葉に、今度は私がきょとんとする。

 ――――――痛い?

 たしかに、お姉さんに手をきつく握られたとき、痛かった。

 もっと前、ローザさんの手をとったときはあったかくて。

 森のにおいや、ほおをなでていった風の感触は覚えている。


 夢って、痛みとか、感覚とか、ないんじゃなかったっけ。

 何か、おかしい気がする―――――――


 ___________________________________


「あーっ!」


 白い部屋。水鏡を見ていた幼女は、まずい展開に思わず立ち上がる。


「まままままままずいです、違和感が形になったら【記憶偽装】が解けちゃう!」


 彼女が自分が死んだ時の記憶を思い出したらどうなるか分からない。パニックになることは避けられるだろうが、「私、死んだんです」などと言って精神病院にでも連れていかれたらたまったものではない。


「ど、どうしましょう!?う〜、お姉さーん、早く戻ってきてー!」


 涙目になりながら叫ぶと同時に、彼女は神の力を行使した。

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