かえで は じゅもん・おぼえてません を となえた!

『話を聞く』と言われて、私が思い浮かべたのは、白い壁、せまい部屋、アルミ(?)製の机、机の上のライト、そしてカツ丼だった。

 まぁ、よくある取り調べ室である。



 そんなものをイメージしていたので、実際に『第3応接室』に案内された時にはびっくりした。


 ――――ひっっっっっっっろい!


 豪華ごうかな壁紙、私の自室より少し大きな部屋、木製のローテーブル、棚の上には花(これまた豪華)、そしていい香りの紅茶。

 ついでに言えばソファもふかふかだった。


 えーなにこの部屋豪華へやごうかすぎじゃない?あそこの花瓶かびんなんてすっごいでっかいよ?花何輪はななんりん生けてあんの?


 と、自分の想像とのギャップに一人茫然ひとりぼうぜんとしていると。

 ガチャリ、と音がして扉が開き、さっきの受付嬢さんが出てきた。


「お待たせいたしました。………つらいことかもしれませんが、覚えている限りで構いませんので、お話、聞かせてくださいね」



 ニコリと笑顔で言われたが、私はあることに気がついて警戒心けいかいしんを引き上げていた。

 部屋が何だ、紅茶が何だ、ソファ(ふっかふか)が何だ!

 そう、このお姉さんこそ尋問のプロフェッショナルであり、今から身の毛もよだつ恐ろしい尋問を―――――――――







「ではまず、お名前を教えていただけますか?」



 ――――――なーんてことは全然なかった。

 いや分かってたよ?というかさっき『応接室』って言ってたし。今のはヲタクと厨二病のさがだし!

 そうだよっ、私がヲタクなのが悪いんだよっ、と内心の羞恥しゅうちになんとかフタをして、質問に答えた。



「はい、かえでといいます」

「カエデ……さん。少し変わったお名前ですが、出身はどちらですか?」

「え?えーっと……」



 日本です。

 とはさすがに言えない。言ったところで通じるかも分かんない。いや多分通じない。



「カエデ、思い出せなかったらいいんだよ」



 あーっとローザさん、ナイスアシスト!

 というわけで、ローザさんが出してくれた助け舟にありがたく乗ることにした。どんぶらこ。



「あ……えと、ち、ちょっと分からない、です…………」

「そうでしたか………では、年齢は……?」

「16歳です」

「16歳……はい、ありがとうございます。では―――――」




 それからいくつかの質問をされ、答えられるところは答え、答えられないところは『覚えてません!』をつらぬいた。

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