”友達クエスト”の少数派 ―フレンド数=強さのVRMMOで芋ぼっち美少女の世話をしたら「と、友達なんかじゃないもん……」とデレてきたので一緒に攻略しようと誘ってみた―
6-10 あ、あなたに初めてをあげるなんて一言も言ってないんだからね
6-10 あ、あなたに初めてをあげるなんて一言も言ってないんだからね
あたしがゲームを再起動すると予想通り、拠点に寝転がっている状態から始まった。
アイテムも装備品も全部空っぽで、今回もまた負けた――というか、システム的に強制ログアウトさせられた。
これも、深瀬君は予定通りと話していたけど……
本当に大丈夫だろうか?
勝利後のブラックアウト画面を経由し、最初は、勝った! という気でいたけど……
だんだん不安になってきた。
で、思わず「本当に大丈夫かな」とそわそわしていると、彼からメッセージが届いた。
【お疲れ様でした、深瀬さん。強制ログアウト自体は通りですので、問題ありません】
【本当に大丈夫なの?】
【はい。明日にはなんとかします。あとは頑張りますので】
返信を見届けて、ヘッドセットを外す。
ボス戦の興奮冷めやらぬ中、ぽふん、とあたしは仰向けのままベッドへと寝転んだ。
……思い返すのは、さっきの戦闘だ。
まだすごく、ドキドキしてる。
けど同時に、反省点がぐるぐると浮かぶ。
ボス戦もっと上手く出来たかなとか、他の戦術はなかったのかなとか――ていうか蒼井君、地味にあたしに自爆特攻させるとか酷くない?
まあシステム上、あたししか【拒絶の剣】が使えないから仕方ないとは思うけど。
はぁ、と火照った興奮を冷ましながら……
つい考えるのは、フレンド登録してしまった彼のことだ。
……どうして彼はこんなにも、あたしに付き合ってくれるんだろうか。
……単なるお人好しだから?
先生に言われたから?
中間試験クリアのため?
(一緒に遊ぶのが、楽しい、って言ってくれた、けど)
ころん、とベッドの抱き枕を抱えこむ。
……あたしも、本当に楽しかった。
自分みたいな引きこもりクソニート女と、本気で一緒に遊んでくれる友達……じゃない、隣の人がいるなんて思わなかった。
そのことは、素直に嬉しい。
……けど、でも。
蒼井君くらい性格がいい人なら、別にあたしでなくても、教室のみんな……明るい副委員長さんとか、あの生真面目そうな女子と組めばいい、とも思ってしまう。
そもそも男子なら普通、クラスメイトの男子とフレンドを組むだろうし?
「うーっ……」
勝利の余韻もすぐに消え、残るのは不安だ。
あたしを優先する理由が、わからない。
一人暮らしのくせにゴミ出しも外出もろくに出来ない、そのくせプライドだけ高くて他人を威圧しないと立つことも出来ない芋女を構ってくれる男の子――
そんなものは、少女漫画にしかいるはずないのに。
それに”友クエ”では幾らゲームが上手くなっても、フレンドを沢山結んでるユーザーの方が絶対に優位だ。
【拒絶の剣】は強力だけど、ゲームを進めて装備品が強くなれば、相対的に価値が低くなるのも目に見えてる。
つまりあたしに構えば構うほど、蒼井君はシステム的に弱くなるのだ。
だから彼が、あたしに構う理由はない。
ない、のだけど……
ちょっとだけ……
自己嫌悪しながらも期待している自分にも、気付いている。
……これで、中間試験は終わっちゃったけど。
このまま、もっと続けたいな、と思うのは……
あたしの、ワガママかなぁ。
と、布団に転がっていた時スマホが震えた。蒼井君からだ。
不安半分、期待半分にメッセージを開いて、
【すみません。遅くなりましたけど、最後のキマイラを倒す時の一撃すごく格好良かったです! ご協力ありがとうございます。深瀬さんのお陰で勝てました、いやもう本当すごかったです!】
んぐっ。
……ま、またそうやってすぐ褒める!
ていうか作戦立てたの全部蒼井君だからね? あたし煽って突撃しただけだし……
あと蒼井君にはお礼を言われたけど、お礼を言いたいのはこっちの方なんだけど!?
とは恥ずかしくて言えないので、どう返事しようか黙って居ると追伸がきた。
【あ。晩ご飯一緒に食べます? 簡単なもので良ければ、作ってもっていきます】
うん食べる。
【じゃあ今日はピーマンともやしの野菜炒めで、どうでしょう?】
【お肉も欲しい】
【今日は祝杯ですから、がんばります】
なんか、ベランダ事件以降、お弁当をもらったり掃除をしてもらったりと、すっかり依存している気がする……。
はダメ人間まっしぐら、って分かってるんだけど。
でも誰かと食べるご飯……いや蒼井君と食べるご飯は美味しいんだよなぁ、とぼんやり考えてると。
今度はママからメッセージが来た。
【ひなた、あなたの新しい服、買って置いたわよ! あなた放っておくといつもジャージでしょ。蒼井君にもたまには可愛い格好見せなさいな。明日持ってくるからねー!】
ふあっ!?
冗談じゃないんだけど!?
てか、普段の芋ジャージ&ダサ眼鏡を見られてるのに、今さら可愛い格好をしたところで「え、何その格好(笑)」とか言われるに決まっている。
第一あたしが可愛い格好なんかしたところで、豚に真珠、炎系モンスターに炎攻撃。意味がないし恥ずかしい……。
着飾るだけ無駄に決まってる。
……まあ。
まあ、でも。
もし二人で外出する機会があったら――
一応、着てあげなくもない、けれど。
まあ外出なんて絶対しないけどね!
引きこもり舐めんなよ!
と、あたしはふんと鼻を鳴らし、蒼井君のおいしいご飯を待つのであった。
――でも。
多分このままずっと、引きこもったままじゃダメなんだろうなぁ……とは。
にぶいあたしでも、何となく気付いているし、本当は――そのために友達クエストを始めたのだ。
そして最初のフレンド登録が、蒼井君だったなら……
蒼井君が誘ってくれるなら、まあ、外にちょっとだけ出てあげなくもない、かもしれない。
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