6-6 あたしに任せて


 彼女から届いたフレンド承認は”四人迷宮”攻略時に返事待ちをしていたものだ。

 気が向いた時に、返事をくれればいいよ、と。

 その返事が来たのに、びっくりしたけど――


「どうして、今?」

「そ、そのっ……ちゃんと意味のあることだから。それより蒼井君、敵の足止めお願いしてもいい? あとは、あたしに任せて欲しいの」


 彼女がぎゅっと下唇を嚙み、僕を正面から見つめてくる。

 意図は分からない。

 けど、彼女が冗談でこんなことをする人じゃないのは、理解している。


「わかった」

「って、いいの? 作戦とか何も言ってないけど……」

「深瀬さんが、任せて、って言ったからね」


 以前【爆炎石】を集めた時もそうだったけど、彼女は「任せて」と言ったら、必ずなんとかしてくれる。

 不安に揺られながら、でも小さな勇気を振り絞ってるのだろうな、というのが見て取れるのだ。

 なら、友達を信じるだけだ。


「深瀬さんはさ、自信満々に『いい考えがある』って言ったときは失敗するけど、任せて、って言った時は大丈夫だから」

「失礼な!?」

「冗談だよ。それにまあ、失敗したら失敗したで、なんとかするし」


 気楽に行こう、と彼女に笑いかける。

 大勝負ではあるけど、負けたからって命を取られる訳でもない。


「じゃあ、深瀬さんはその切り札に集中して。僕がなるだけ攪乱するからね」

「ええ。……で、どうするの? 大声はもう聞かないと思うけど」

「人間の五感って、あるよね。味覚とか聴覚とか。そのうち――視覚は80%もあるんだって」


 笑ったところで、頭上のグリフォンが再び爪を立て着地体勢に入った。

 深瀬さんが手にした黒剣を、大した脅威ではないと見積もったらしい。


 確かに深瀬さんは【魔法使い】のため、物理系アイテムは有用に使えない。

 彼女が剣を手にしたくらいで、体勢が変わらないと思うのが普通だろう。


(けどまあ、深瀬さんが任せてって言ったし。なら、僕がやることは――敵の足止め)


 グリフォンが急降下し、再び【スカイダイブ】を狙いつつ僕に直接迫ってくる。

 その急降下をギリギリまで引き付け――


(3、2、1……いま!)


 僕は懐にひそめた【閃光弾】を複数掴み、敵の眼前に投げつけた。

 強烈なフラッシュが世界を包む。


 本来グリフォンに閃光弾は効果がない。

 閃光耐性があるらしく、通常なら何の効果もなくスルーされ僕は突進の餌食になっただろう。


 ただし、チカチカと瞬くエフェクトは、直視すると目に痛い。

 しかも複数個投擲した。

 光がグリフォン自身に届かずとも、ヘッドセットをつけてる”中の人”には別だ。


 クエエッ!? とグリフォンが悲鳴をあげた。

 着地のバランスが崩れ、グリフォンが躓いたような格好で転倒。【スカイダイブ】が不発に終わる。

 気絶エフェクトこそ出ないものの、慌てて翼をばたつかせる姿から、動揺を読み取るのは容易い。


 そこにすかさず深瀬さんが飛びかかり――


「せやああああっ!」


 黒い剣を、直接振り下ろした。


 一見すると、ただの通常攻撃。

 彼女は【魔法使い】なので剣系スキルは使えず、筋力パラメータもないので威力は雀の涙のはず。


 僕自身、期待しつつも常識ではそう判断していたし、対面するグリフォンもまた侮っていただろう。

 敵は深瀬さんの攻撃に見向きもしないまま、僕を睨み付け――




 グリフォンの頭上に表示されたHPゲージが、がっ、と音を立てて。

 最大HPの二割が、魔法のように消し飛んだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る