5-2 ゲームでも友達割ってあるんですか?


 一言でまとめると「強い! 硬い! チート!」らしい。


 ボス名はグリフォン。

 ファンタジーでよくある、鷲の翼と獅子の胴体をもつキメラだという。

 サイズは高さがおよそ深瀬さんの2倍で、大きくはあるものの超巨体ではない。


「まず敵は早々に空を飛んだあと、一切降りてこないわ。接近戦させる気ゼロね」


 なかなか尖ったボスらしい。


「基本技は、翼から発動する中威力の全体風攻撃【ウィンドストーム】と、口から放つ単体炎攻撃【ファイアボール】。そして高速かつ高威力の六連続落雷【ゼクスサンダー】の三つよ」

「高威力……六連続?」

「十二人パーティだったら運が悪くても一人二回ヒットだけど、ソロだと単体六連続ダメージで即終了ね」


 つまり”四人迷宮”のように人数制限はかけないが、そもそもパーティを増やしてダメージを分散させないとキツい仕様か。

 おまけに常時滞空。


「滞空については、あたしは魔法使いだから遠距離でも戦えるわ。炎が弱点だから、ダメージは与えられるんだけど……HPゲージがミリしか減らなかったわね。あと、毒や麻痺は有効。毒は前回のアップデートで弱体化されたけど、それでも有効なダメージリソースになると思う。――けど」


 最大の事件が起きたのは、戦闘開始から十分が過ぎた時だった。

 グリフォンが雄叫びをあげ、空中からいきなり地表目掛けて急降下。

 どしん、と着地したと同時に、白い波動がフィールド全体に広がり――


 気がついたら、拠点で目を覚ましたという。


「っていうのを、三時間くらい繰り返して……フィールド全体を包む衝撃波【スカイダイブ】っていう技なのは、理解できたけど、どんなに防御力を上げても回避しても、大ジャンプしても、前転しても死んだふりしても命乞いしても即死だったわ」


 死んだふりや命乞いは疑問だけど、あらゆる手を試したが確定即死技だったとのこと。

 中々に厄介だが――ゲームである以上、攻略法のないボスは存在しない。


「情報ありがとうね、深瀬さん。……そうだ、クラスメイトの攻略見てもいい?」


 攻略好きな男子達なら、今ごろレイドボスを撃退し、クラス共用の攻略情報まとめに書き込んでる頃だろう。

 また今回、僕は藤木さんにあるお願いをした。彼女の情報が届くのを待つのも良い。


 僕はスマホを開き、情報収集を始めた。





 ――数時間後、藤木さんから約束のものが届いた。


「これは?」

「クラスのみんなが、グリフォンと戦う様子を動画撮影したものだよ。藤木さんにお願いしたんだ」

「動画あるなら、あたしの攻略情報、意味なくない……?」


 いや。

 四人迷宮のボスのように、僕等とクラスメイトの情報に差異がある可能性もある。対比は必須だ。


「動画が、二人で見ようか」


 夕食を終えた深瀬家のテーブルにスマホを置き、二人で覗き込む。


*


 動画には十三人くらいの、クラスメイト達が揃っていた。藤木さんを筆頭に、吉村君や獅子王さんもいる。

 ゲームとはいえクラスメイト達が異世界風の鎧や剣を装備してる姿は、演劇の舞台みたいだ。


 バトルフィールドは、古代ローマを想像させるコロシアム。

 中央に陣取るのが、獅子の顔に巨大な翼と尾をはためかせた怪物、グリフォンだ。


 戦闘が始まり、グリフォンが風をまとい空高く飛び上がった。

 さっそく翼をはためかせ、風属性の攻撃【ウィンドストーム】の発動。さらに六連続雷撃【ゼクスサンダー】を立て続けに放ち、クラスメイト達がわいわいと慌て出した。


『せっこ! 飛んでばっかりだし!』

『遠距離、持ってない人はサポート入ってー!』


 藤木さんの一声で場がひき締まった。

 魔法や弓持ちの生徒が頭上に刃を向け、遠距離を持たない生徒は回復や防御に徹する。ちなみに動画の視点元である藤木さんは【狩人】で、彼女もすばしっこく走りながら矢をひゅんひゅん放っていた。


 そして十分が経過した頃――グリフォンが雄叫びを上げた。

 皆が何事かと構え、グリフォンが地表に向けて勢いよく飛びかかる。


 大技【スカイダイブ】――

 爪先を地面に叩きつけた途端、ぶわっとフィールド全体に白い波動が拡散。

 消化器を撒いたように視界が真っ白になり、藤木さんが「わわわーっ!」と悲鳴をあげ、動画が突風でも浴びたように揺らぐ――



 ……けど、大したことなかった。

 藤木さんのHPゲージは四分の一ほど削れているけど、その程度だ。

 他の生徒達もたいした被害はなく、逆に、グリフォンが地面に降りた今がチャンス、と全軍突撃。


『全軍突撃ぃー! 我等に必ずや勝利を!』

『いや全軍突撃とか意味わかんねーし、我等ってなんだよ我等って!』

『ノリだよノリ! 格好いいだろ?』


 調子のいい男子達が楽しげに攻め入り、グリフォンのHPを一気に削る。

 そのゲージが50%を切った所で、グリフォンの行動に変化が出た。


 爪を大地に立てての突進――空中戦を捨て、地上戦の猛攻を仕掛けてきた。

 背後から近づけば、後ろ足と尻尾による強烈な稲妻キック。さらに炎攻撃による追撃もお見舞いしてくる。

 が、クラスの皆も慣れたもので、わいわい騒ぎながら回復アイテムを惜しげもなく消費していく。


『行ける行ける! 突撃ー!』

『だから突撃ってなんだよ旧日本軍かよ!』

『サッカー部しか勝たん!』

「お前野球部だろうが!」


「……蒼井君のクラス、楽しそうね」

「うちの学校ゆるいし、僕のクラスいい人ばっかりだからね」


 バトルは佳境に突入。地上戦の方が戦いやすいのか、グリフォンに対し男子が積極的に飛びかかっていた。

 終盤は一気呵成に攻めたせいか、グリフォンに気絶を示す星エフェクトまで発生し、その間に最後のHP10%を一気に削る。

 グリフォンが消滅し、生徒達が勝利の拳を振り上げたところで動画は終了――




「……あ、あのね? 蒼井君、さっきの波動みたいなやつ、あたし本当に即死だったのよ。う、嘘なんかついてなくて……」

「ええ。四人迷宮で戦ったボスもでしたけど、僕らとクラスメイトで仕様が違う可能性もありますし――」


 ――と、深瀬さんと会話してる間に、再び動画が始まった。

 藤木さんが他の生徒につきあい、二度目のレイド戦に向かったらしい。


 今度は女子ばかりの八人パーティだ。

 これはちょっと苦戦するかも? と動画を見始めて十分後――


 【スカイダイブ】から、例の白い波動が画面全体を埋め尽くした。

 藤木さんが「のわーっ!?」と吹っ飛び、そのHPゲージが7割くらい削られる。


「ん?」


 さっきより、ダメージが……

 ――ああ、そうか。これはもしや――


「深瀬さん。あの攻撃、もしかしたら人数割り、或いはフレンド割してるんじゃないかな」

「は?」


 【スカイダイブの】のダメージを、仮に全体1000とすると――


 パーティが15人なら、1000÷15=一人頭66.6ダメージ。

 パーティが10人なら、1000÷10=一人頭100ダメージ。


「つまり一人だと回避不能の1000ダメージ直撃で、二人なら500ダメージ、です」


 友達割である。

 スマホ料金の割引制度かな?

 と、僕が笑うその隣で、深瀬さんがぷるぷると震えて「クソゲー!」と運営を罵り始めた。




 グリフォン。

 二人では削るのが困難な、膨大なHPを持ち、凶悪な六連続雷撃および近接戦闘を行う怪物。

 さらに二人では即死確定の、友達割効果をもつ波動攻撃。


 厄介な中間試験ではあるけれど――

 僕は既に、そのいずれも対策可能だな、と算段をつけていた。



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