5-1 隣の部屋を覗くと友達が死んだふりをしてました


「というわけで、今日から友クエ中間試験のレイド戦が解禁になる」

「「おお―――!!」」

「ということは、中間試験の準備期間に入ったって意味だからな? 勉強しろよー?」

「「えぇ――――!?」」


 数日後、担任の説明にクラスから歓喜とブーイングが飛んだ。

 うちは進学校という訳ではないけれど、一応、試験前の一週間は部活禁止になる。


「先生ー! なんでゲームの試験とリアル試験をおなじ時期にやるんですか!?」

「藤木ぃ。先生もそう思うんだが、友クエも一応試験として扱うとお上からお達しがあってな。そして先生はしがない地方公務員だから、お上に逆らうとお給料が寂しくなるんだ」


 お手上げのポーズをする先生。

 まあ友クエがグループワークの一環なら、他課目とおなじ時期に試験があっても……いや中間試験五教科に混じるのはおかしいけど、偉い人が決めたなら仕方無い。


「ま、友クエの試験なんてフレンドがいたら一時間で楽勝だから、お前等さくっと終わらせて勉強しろよ? 政府公認ゲームにかまけて成績落しました、とか言われたら先生マジで泣くからな」

「でも先生、それ先生の責任じゃなくて、友クエ運営してる偉い人の責任じゃないですか?」

「部下の手柄は上司のもの、失敗は部下のもの。それが大人の社会ってヤツなのさ」


 頑張れよー、と手を叩いてHRを解散させる先生。

 まあ学校の成績については、僕は問題ない。授業はきちんと聞いているし提出物も完璧だ。テストでも学年トップ5から落ちたことがないし。

 問題は、友達クエストの方だろう。


 もちろん、フレンドを組んで、クラスのみんなと戦えばクリアできるとは思うけど……

 深瀬さんを放っておくのも、ね。


「なあ吉村ー、さくっと今日クリアしちゃおうぜ? 面倒事は今日済ましちゃおう」

「おー。じゃあみんなに声かけてみるわー」


 教室では早速打ち合わせが始まり、気の早いゲーム好き男子達が攻略情報を交換する。


 僕は思う所があり、藤木さんに声をかけた。


「藤木さん。今回のレイド戦で、お願いがあるんだけど」


*


 授業を終えて帰宅すると、深瀬さんからメッセージが届いていた。


【レイド戦開始の通知が来たわ。今回の敵について調べたんだけど、忌々しい人数制限もダンジョンもなくて一直線にボス戦みたい。

 工夫次第でソロでも勝てるかも。っていうか勝てる気しかしないわ!

 先に様子見してくるわね。何ならこのメッセージをあなたが読んだ時にはもう勝ってるかも?

 まああたしに任せなさい、友クエ唯一のぼっちによる、ジャイアントキリング見せてあげるわ】



 と、六時間前に通知があり、そこから音沙汰がない……。


 僕はスーパーで買ってきた卵や食パンを冷蔵庫に詰め込み、一旦お風呂で気分をさっぱりしたのち友クエにログイン。が、彼女の姿は影も形も見当たらない。

 どうしたんだろう? とログアウトし、ベランダ伝いに隣へ行くと――


 カーペットの上に、芋ジャージが突っ伏していた。

 死体のようにうつぶせで倒れ、傍らには意味深に眼鏡が置かれている。

 床には油性ペンが転がり、倒れた彼女の手に握りしめられたレポート用紙には血のような文字で『 ク ソ ゲ ー 』とダイイングメッセージが残されていた。


 ……楽しそうだなぁ。


 窓をスライドする。鍵は開いていた。倒れてた深瀬さんをゆする。


「深瀬さん、大丈夫ですか」

「蒼井君……あたしは、もうダメだわ……クソゲーはしょせん、クソゲ―だったわ……ごふっ」


 リアルで吐血モーションをする深瀬さん。

 それから僕の袖を掴んで、


「あとは頼んだわ……あたしの敵を取って、お願い――」 

「迫真の小芝居はわかりましたので、どうしたんですか?」

「小芝居しないとやってられないくらい強かったのよ!!!」


 深瀬さんがすぐに目を尖らせ地団駄をした。

 この子本当にリアクションが面白いなぁ、と苦笑する僕に、彼女はそれはもう怒りの形相を浮かべて、


「なによあの回避不能の全体OFF波動、必中つのドリルに倒させる気のないバカHP! なにが友達クエストよ、開発元じつは日本政府じゃなくてフロ○ソフトウェアじゃないの?」

「ごめん深瀬さん、日本語で話してもらってもいい……?」


 専門用語が多すぎる。

 ただ彼女が苦戦してるのは理解できたので、頭を優しく撫でてあげた。


「まあまあ。一人でよく頑張ったね」

「撫でないでよ、あたしを何だと思ってるの……?」


 と言いながらも一切抵抗してこなかったので、可愛いなぁと思ってしまったのは秘密にしよう。







―――――――――――――――――――――

いつもお読み頂きありがとうございます。

宜しければいいね、評価、コメントなど頂けると嬉しいです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る